ベトナム進出支援

労務・労働法

目次

1.労働環境■最近のベトナムの労働環境 / ■労働力人口 / ■労働力人口の地域性
■産業別就業人口 / ■外資企業(日系含む)における賃金上昇
■現地人の雇用義務 / ■労働者の募集方法
| ■現地人採用時の留意点 / ■労働管理
2.労働基準関係法令 ■労働法体系の概要 / ■労働法における定義
■日本とベトナムの労働条件比較 / ■日本とベトナムの労働条件比較
3.雇用契約書と就業規則 ■雇用契約書の概要 / ■雇用契約の終了 / ■就業規則の作成義務 
4.ワークパーミット ■ワークパーミットの概要 / ■労働許可証の発行手数料
5.駐在員の給与設計 ■日本-ベトナム間の給与格差問題

1.労働環境

■最近のベトナムの労働環境
ベトナムで投資やビジネスを始めるためには、ベトナムの労働市場・環境、現地雇用、雇った後の労働者との関係づくり等を知っておく必要があります。 ベトナムは、近年、経済成長速度の回復に努め、2009年より高い成長率を達成しています。また、マクロ経済の安定を高め、高インフレを防ぎ、社会保障の保障能力を高めることを目指し、実現しています。2006年~2010年に掲げた経済・社会発展計画指標においても、最も高いレベルで達成できるように努力しています。

■労働力人口
ベトナムは、人口が約8,693万人(2010年)となっています。人口の内訳は、都市部約3割、地方部が約7割となっています。 2010 年のベトナムの労働力人口は5,051 万人であり、2009 年の4,919 万人と比較して2.68%増加しています。労働力人口のうち、男性は約52%を占め、女性は約48%を占めています。近年は、女性の労働力人口が減少傾向にあります。

■労働力人口の地域性
2008 年の農業労働力人口は2000 年と比べ、56 万人増加の約3,558 万人となっています。年間の平均労働者数は約70 万7,000 人増加しています。労働力人口の中でも、農村部の人口が特に増加しています。 経済の発展に伴い生活が改善され、多くの高齢労働者が働く必要がなくなってきたことも原因となり、労働力率(15歳以上の人口の中に占める労働力人口の割合)は少しずつ減少しています。この傾向は農村部より都市部に明らかで、農村部の労働力率は72.9%、都市部では61.9%でした。近年、下記のような地域では、労働力不足が深刻化しています。

【労働力不足が見られる主な地域と現状】
・ホーチミン市:旧正月後、ホーチミン市の多くの企業が労働者に家賃・食費援助等の待遇制度を打ち出したが、労働者の応募数が少なく、雇用困難な実態がありました。
・KIENGIANG省:製造業の多くの企業で、70%位しか操業ができない状態となっています(KIENGIANG商工会)。
・CAMAU省:特に水産加工企業で労働者が不足しています。一部の水産加工企業では、欠員従業員が40%程度と過度な人手が不足となっている企業もあります。

このような労働力不足を解消するための第一歩としては、進出する地域の求職・求人の情報を把握することが欠かせないといえます。

■産業別就業人口
産業別の就業人口をみると、農林業の占める割合が多くなっていますが、近年は減少傾向にあり、農林業における労働者数の割合は2005年の53.6%から2009年の48.2%へと減少しています。一方、製造業は12.3%(2005年)から14.3%(2009年)、並びにサービス業(卸売小売業、自動車、モーターサイクルと個人と家庭用品の修理)は10.6%(2005年)から11.0%(2009年)とどちらも増加し続けています。この傾向は雇用の産業化及び近代化、さらにはベトナムの経済改革の方向性にも反映されています。

■外資企業(日系含む)における賃金上昇
2010年の在ベトナムの外資企業の昇給率は、年間13.5%となっています。特に、ハノイとホーチミンでの上昇率が高くなっています。(出所:Towers Watson Vietnam給与市場調査)
【昇給率の上昇の主な原因】
①インフレ
②人件費予算の上昇
管理職・ハイレベル人材の昇給など人材確保にかかる費用の増加
③人材確保が困難
外資企業の従業員退職率が高いのに加え、新規の人材確保が困難

■現地人の雇用義務
ベトナムにおける外国人の雇用枠(全従業員に対し外国人従業員3%という制限)は2008年3月に廃止されました。法人及び駐在員事務所ともにベトナム人雇用義務はありませんので、外国人のみで運営することも可能です。

■労働者の募集方法
ベトナムでの労働者の募集の際には、新聞やラジオ、インターネットなど、または、外部の人材紹介会社に依頼して募集をかけます。ワーカークラスの募集の場合には、工業団地や工場前の掲示板で募集要項を張り出すのも一般的です。最近では、製造業のワーカークラスの採用がこれまでと比べて難しくなってきています。特に数千人単位での雇用においては、工業団地周辺でなく、周辺省まで採用活動の対象地域を拡大しているケースもあります。 スタッフやエンジニアにおいても、同様に採用が困難な傾向があり、特に日本語の話せる人材、日系企業勤務経験者の確保が困難になっています。そのため、日系企業は新卒者を経験者に育成することも今後の採用活動の選択肢として考える必要があります。

■現地人採用時の留意点
ベトナムの労働法(Law No.35/2002/QH11)第16条によると、雇用主は、直接あるいは職業紹介機関を通してベトナム人を採用することができます。採用した労働者については、労働行政を担当する地域の関係機関への報告が必要となります。雇用契約の締結にあたっては、雇用者と労働者の合意により、試用期間を決めることができます。 試用期間は、高度な技術を持つ労働者(短期大学卒業以上の学歴レベル)は最長60日間、技能を持つ労働者(専門学校卒業レベル)は最長30日間、その他の労働者については最長6日間まで定めることができます(労働法第32条)。試用期間内であれば、雇用契約について雇用者あるいは労働者どちらか一方の通知により契約書の取消が可能です。 ベトナムは、日本や他のアジア各国と比較すると、規定できる試用期間の長さは短いですが、雇用契約の解除が認められていますので、企業は試用期間について就業規則や雇用契約で明確に規定をすべきです。ただし、試用期間中の賃金は、正規雇用時の賃金の70%以上でなければなりません。

■労働管理
製造業の採用において、工場労働の経験がない労働者も多いため、その場合にはまず仕事に対する考え方や意識などから教育する必要があります。工場労働に対する経験不足が原因で労働争議が発生した例もありますので、最初の教育が重要といえます。 給与改定のルールについての認識不足なども原因の一つとされますので、同工業地区内の他企業との給与改定のタイミングなどに相違がある場合には、時期の違いについて事前にきちんと理解をしてもらう必要があります。 日系企業では、ワーカークラスはベトナム語、事務所スタッフは英語、ベトナム語、日本語など企業によって公用で使用している言語が異なっています。前述のとおり、英語が出来る事務職員、エンジニアの採用は比較的容易ですが、日本語が出来る人や日系企業での勤務経験のある人の採用は容易ではないため、採用した後で日本語や日本の文化を教えている日系企業もあります。 また、ベトナム人労働者とのコミュニケーションにおいては、言語の問題だけでなく、意図がしっかりと伝わっているかどうかが問題になるケースも多いので、個別に意図が伝わっているのかを確認することも必要です。

2.労働基準関係法令

■労働法体系の概要
ベトナムでは、労働関係法として、労働法、労働組合法、不服申し立て法、社会保険法、労働安全法、男女平等法、環境法の7法が以前はありましたが、1994年に労働法として一つの法律にまとめられました。ベトナムの労働法は、資本主義国の労働法と大部分においては変わりませんが、「労働組合」の定義については異なっています。 日本の「労働組合」は「勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障する組織」すなわち、「労働条件の維持改善その他、経済的地位の向上を図る経済的組織」であるのに対し、ベトナムの「労働組合」は、労働階級および勤労人民の社会的・政治的組織となっています。

■労働法における定義
・使用者
使用者とは、労働者を雇用、使用して賃金を支払う事業体、機関、組織または個人をいいます。個人としての使用者は満18歳以上でなければなりません。
・労働者
労働者とは、満15歳以上であって労働能力を有し、雇用契約を締結した者をいいます。 ただし、次の者については雇用契約の適用とはなりません。

①公務員法令の適用対象に属する者

②国会の代表、各級人民会議の専任代表、国会または各級人民会議により任期を持って任命または選出され、国会、政府、各級人民委員会、人民裁判所および人民検察院の機関において職務を行う者

③所轄機関により任期をもって任命または選出され、国会、政府、各級人民委員会、人民裁判所および人民検察院の機関において各職務を行う者

④事業体管理協議会のメンバー

⑤政治組織、政治社会組織に属し、当該組織の規律に基づいて活動する者

⑥各事業体内部の党、労働組合、青年団組織において工作を行う専従幹部であって、事業体から賃金の支払いを受けない者

⑦合作社法に基づく合作社の社員であって、賃金、工賃の支払いを受けない者

⑧人民軍または人民警察の士官、下士官、戦士、専業軍人および職員

・定年
ベトナム労働法は、日本と同じく性、人種などの差別を行わないことを根底理念としていますが、定年は、男性60歳、女性55歳であり、男女による違いがあります

■日本とベトナムの労働条件比較
労働法において、労働時間は原則として最長1日8時間、1週間48時間と規定されています。一日の労働時間は日本の労働基準と同じですが、1週間当たりの労働時間について日本は40時間とされていますので、ベトナムの方が長くなっています。 会社はこの範囲内で勤務時間を設定し、1日または1週間ごとのスケジュールを事前に労働者に通知する必要があります。通常は就業規則や雇用契約書で所定労働時間について明記することになります。なお、従事する業務が、労働・傷病兵・社会問題省および保健省が定めた有害・危険作業リストに該当する場合には、1日の労働時間につき1~2時間を短縮させることが必要です。

また、休日は1週間に最低1日取得しなければなりません。ベトナムでは、国営企業のほとんどは完全週休2日制ではなく土曜日午前中のみ勤務としています。外資企業の製造業では、土曜日終日を勤務日としている企業も多くあります。 残業は最長1日4時間、年間200時間以下でなければなりません。残業を行った場合には以下のように、通常の給与を基準として割増賃金を支給します。ただし、特別な事情があれば年間300時間までの残業が認められる例外もあります。残業をさせた場合には、会社は労働者に対して通常の賃金に加え割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金は、残業をさせた日によって以下の表のとおり割増率が異なります。

ただし、割増賃金を支給する代わりに、残業時間に相当する代休を取得することもできます。この場合には、会社は割増賃金から通常の賃金を控除した差額を支払うことになります。なお、法定祝日は以下の表のとおり年間で9日間になります。法定祝日や有給休暇を取得していた日に労働をさせた場合には、300%の割増賃金の支払いが必要となりますので、注意が必要です。

年次有給休暇は、上記のように過重な労働者等には通常の労働者より多くの日数が付与されます。通常の労働者は、年間12日となります。ただし、勤続年数5年毎に1日付与日数が増加します。なお、勤務期間が1年未満の場合は、月に1日の割合で有給休暇が与えられます。

未消化の有給休暇については次年度に繰り越すか、現金で精算することができます。従業員が退職する際に未消化の有給休暇がある場合は、現金で精算しなければなりません。法定の買い取り義務はありませんが、未取得日数を有料で買い取る企業もあります。 但し、有給取得を奨励しているにもかかわらず、従業員が有給取得しない場合には、買い取りをしない、という規定を設けることができます。買い取りをしない企業では、有給消化率は高く、買い取りをする企業では、消化率は低くなる傾向があります。企業によっては、年末に未消化分の有給買い取りコストの発生により一時的に支出が増大するケースもみられますので、買い取りの規定を設ける場合には、日数およびコスト管理に注意をする必要があります。

深夜労働時間は、政府の定める地域に応じて設定されています。深夜労働時間に労働を行った場合、深夜労働手当として通常の賃金の30%相当を通常の賃金に上乗せして支払わなければなりません。

深夜労働時間に時間外労働をした場合の割増賃金は次のように計算します。

深夜時間外労働の割増率の計算根拠は下記のようになります。

(例)平日4時間(20時~24時)の時間外労働労働を行った場合
20時~22時の2時間×通常の賃金×150%
22時~24時の2時間×通常の賃金×150%×130%=195%

日本の労働基準と異なり、割増率を足すのではなく、乗じて計算しますので、その点に注意が必要となります。

なお、労働者を残業させたにもかかわらず、割増賃金を支払わなかった場合には、違反した労働者の数に応じ下記の金額の罰金を課されます。(※1ドン=0.0045円で換算)

さらに、以下の労働者は、労働法上残業または深夜の就業が禁じられています。
 ・妊娠7カ月以上の女子労働者
 ・満12歳未満の子の養育をしている女子労働者
 ・労働能力の51%以上を失った身体障害者
 ・未成年労働者(ただし、労働傷病兵社会問題省の定める職業・職務を除く)

3.雇用契約書と就業規則

ベトナムで人を雇用するにあたっては、雇用契約書と就業規則について整備をする必要があります。労働者との個別の条件については、雇用契約書で定め、会社全体のルールについては、就業規則に定めることになります。就業規則の作成は、10人以上の労働者を雇用する場合に義務付けられていますが、労務管理を行うためにも、就業規則はどの企業においても作成をするのが望ましいでしょう。 ベトナムでの就業規則はベトナム語もしくは英語で記載されていなければなりません。雇用契約書もベトナム語もしくは英語で記載するケースが多くみられます。また、日本語その他の言語で、労働者への説明用に作成されることもありますが、その際にはどれが主たる契約、規程であるかを明確にしておく必要があります。

■雇用契約書の概要
雇用契約書は、「労働者と使用者との間における、賃金の支払いを受ける雇用、労働条件および労働関係における双方の権利と義務に関する合意」をいいます(労働法26条)。また、契約した労働者本人が労務を提供しなければならない点、継続的な契約関係である点において民法上の請負契約とは区別されています。

雇用契約書では、主に以下のような項目について定めます。

・雇用期間(試用期間)
・従事する業務内容
・就業場所
・就業時間(休憩時間)
・賃金
・賃金支払い方法
・残業、休日出勤
・賞与
・退職金
・昇格・昇給
・社会保険
・安全、衛生に関する事項

日本では、雇用契約は期間の定めのない契約と期間の定めのある契約の2種類がありますが、ベトナムでは、期間の定めのない契約の他、期間の定めのある契約の中で、12ヶ月以内の場合と、12ヶ月以上36カ月以内の契約に分かれ、3種類の契約形態があります(労働法第27条)。

①12か月以内の契約(季節労働または特定業務に係る期間の定めのある契約)
②12か月以上36カ月以内の契約(期間の定めのある契約)
③期間の定めのない契約

期間の定めのある雇用契約は、2回まで(更新は1回まで)しか結ぶことができません。契約期間が終了した後も労働者が継続雇用を希望するときには、契約終了の日から30 日以内に新しい雇用契約を結ばなければなりません。新しい雇用契約を結ばない場合、既に締結していた期間の定めのある雇用契約は、「③期間の定めのない雇用契約」となります。この点は日本の雇用契約書の取り扱いと異なるため、注意が必要となります。なお、企業の中には1度契約を解消し、再雇用という手続きをとるケースもみられます。
また、ベトナムは社会主義国であることから、労働者寄りの労働法となっているため、解雇は非常に困難とされています。法律では、3回警告をしても改善が見られない場合には、解雇が可能とされていますが、訴訟になるケースもあるため、警告について、必ず労働者のサインをもらい確認をするなどの対応をとっておくことが重要となります。

■雇用契約の終了
労働法第36条によると、雇用契約は次の場合に終了となります。

①契約期間の満了
②契約による業務の完了
③使用者・労働者、双方による合意
④労働者が刑期に服する場合、または裁判所の決定により職務復帰が出来ない場合
⑤労働者の死亡、または裁判所が失踪を宣告した場合
労働法第38条では使用者による一方的な雇用契約の終了(解雇)について規定しています。使用者が一方的に労働契約を終了することができるのは、次の場合となります。

①労働者が雇用契約上の義務不履行を繰り返した場合
②労働法第85 条の懲戒解雇事由に該当する場合
③労働者が病欠の上限を超え、職場復帰が見込めない場合
④自然災害等の不可抗力により、雇用削減が不可避な場合
⑤会社が営業をやめる場合

使用者が、上記のうち、①、②、③のいずれかの理由で一方的に労働契約を解除する場合は、事前に労働組合の幹部会の合意を得なければなりません。幹部会の合意を得ることができなければ、最終的に法律に基づいて労働紛争の解決を図ることになります。

なお、使用者が一方的に労働契約を終了することが認められる場合でも、労働者に対して雇用契約内の給与、ボーナス及び離職手当等の支払いは必要となります(労働省案内書2813号)。これらの支払いは、契約が解除された日から7日以内に、各自の権利に関連する項目について精算しなければなりません(例外が認められれば7日を超えることもありますが、30日を超えることはできません)。

労働法84条では、違反行為を行った従業員への対処について、違反内容に応じて、(1) 戒告(口頭又は書面)、(2) 最長6ヶ月以内の昇給停止又は賃金の低い職務への異動、(3) 解雇、の措置を取ることができると規定しています。(2)と(3)の処分手続を行う場合、会社側は、対象となる従業員が違反行為を行ったことを立証し、手続を文書で記録する必要があります。

また、懲戒解雇が認められるのは、以下のような場合です。

①窃盗、横領、技術的機密及び企業秘密の漏洩その他企業の財産及び利益に対する著しい損害(制令によれば会社に500 万ドン以上の損害)を与える行為を行った場合
②懲戒処分として昇格の据え置きまたは他の職務への転属となった場合において、同一内容の違反を犯した場合または常習的な違反者であった場合 ③正当な理由なく月に5 日間または年間で20 日間欠勤した場合

懲戒解雇をするにあたっては、使用者は事前に労働者の意見等を聴取する必要があり、労働者は弁護士等の代理人を選任して交渉することとなります。また、使用者が労働者の意見聴取をする際には、労働組合の執行委員会の代表者が同席しなければなりません。現実として、解雇の手続は煩雑であるため、会社側と当該従業員が話し合い、労働契約の終了の形をとって退職とするケースが多いようです。

会社は、組織再編や技術革新のために余剰人員が生じた場合には、勤続12か月以上の余剰人員については再訓練を実施し、新たな配属先に就けるようにしなければなりません(労働法17 条)。これが出来ない場合には、余剰人員の解雇ができますが、労働者の勤続年数×月給の金額相当の退職金を上乗せして支払う必要があります。但し、この金額は月給の2 カ月分を下回ってはいけません。
労働法第37条では、労働者による一方的な労働契約の終了について規定しています。労働者の都合で雇用契約を解除する場合には、法律上は退職日の45日前に使用者に報告することとされていますが、実態は事後報告が多くなっています。すでに転職先を決めてしまっているケースが多いため、顧客や業務の引き継ぎ対応などでトラブルになることもあります。このようなトラブルを防ぐためにも、顧客、業務の引き継ぎ対応の義務などを事前に雇用契約書上で記載しておくことが必要です。

 ■就業規則の作成義務
前述のように10名以上の労働者を雇用する会社の場合は、労働協約の締結と書面による就業規則の作成が義務付けられています。  就業規則については、日本、ベトナムでその位置づけが少し異なります。日本では、作成にあたり労働組合の意見を聴取する義務は課せられていますが、規則の内容に関しては会社で定め、所轄の労働基準監督署長への届出をします。これに対して、ベトナムでは労働組合執行委員会からの意見聴取があるほか、省または直轄市の労働傷病兵社会問題局に登録をしなければ有効となりません。就業規則の内容については、省または直轄市の労働傷病兵社会問題局からの不備の通知がない場合、登録日から有効となります。登録しない場合には、就業規則の効力が不十分となり、実際に社員を処罰する際に会社側が法的に不利となる可能性もあるため、労働傷病兵社会問題局への登録は必ず行わなければなりません。

就業規則の作成及び省・直轄市の労働傷病兵社会問題省への登録は、労働者・従業員を雇用する前に行う必要があります。労働者・従業員を雇用する際は、労働条件など就業規則をベースとして前述の雇用契約書を締結します。

なお、就業規則を登録する際に、内容の修正を求められることがあります。もし当該変更内容が個別の雇用契約書にも関わる場合には、その雇用契約書も変更しなければなりません。したがって、就業規則を作成し、内容を確定させた上でそれに基づき個別の雇用契約を締結することが必要です。

また、ベトナムの労働法には、「就業規則に違反する者の制裁措置」に関する定めがあります。これは、就業規則に違反する者は、違反行為の軽重により、「譴責」、「最高6カ月間の減給と他業務への配置換え」、「解雇」のいずれかの処分を受けることになります。雇用側の企業としては、法的には就業規則の作成義務がない場合であっても、労務リスク低減の観点から、就業規則を作成し、省・直轄市の労働傷病兵社会問題局に登録することが望ましいと言えます。

【就業規則に関する手続きのながれ】
①就業規則の内容について、事前に労働組合執行委員会と協議する
②作成した就業規則を省、直轄市の労働傷病兵社会問題省へ登録する
③就業規則を労働者全員に周知し、社内に掲示する
就業規則の内容には、以下の項目を記載する必要があります。

①労働時間、休憩時間
②社内秩序
③職場の労働の安全と衛生
④社内資産、技術、事業機密の保全
⑤就業規則違反に対する罰則や物的損害に対する措置

これ以外にも、会社の事情に合わせて、法律に適った内容で項目を追加することができます。また、作成はベトナム語もしくは英語でなければなりませんが、労働者に説明する際の参考などとして日本語などの外国語でも作成することが可能です。

【就業規則に関する手続きのながれ】
①就業規則の内容について、事前に労働組合執行委員会と協議する
②作成した就業規則を省、直轄市の労働傷病兵社会問題省へ登録する
③就業規則を労働者全員に周知し、社内に掲示する
就業規則の内容には、以下の項目を記載する必要があります。

①労働時間、休憩時間
②社内秩序
③職場の労働の安全と衛生
④社内資産、技術、事業機密の保全
⑤就業規則違反に対する罰則や物的損害に対する措置

これ以外にも、会社の事情に合わせて、法律に適った内容で項目を追加することができます。また、作成はベトナム語もしくは英語でなければなりませんが、労働者に説明する際の参考などとして日本語などの外国語でも作成することが可能です。

4.ワークパーミット

■ワークパーミットの概要
ベトナム国内で就業する外国人は次の条件を満たさなければなりません。

・18歳以上であること
・職務遂行上、健康面において必要な要件を満たしていること
・製造もしくは事業の運営面において長年の経験と高い専門性を有していること
・ベトナム及び海外において犯罪歴のないこと
・3ヶ月以上の就業については労働許可証(ワークパーミット)を取得すること
ベトナムにある企業、組織で連続3ヶ月以上働く外国人は、上記のとおり労働許可証(ワークパーミット)を取得しなければなりません。労働許可証の期限は最長36ヶ月です。なお、一人有限会社の所有者である外国人、二人以上有限会社の出資者である外国人等は労働許可証の取得を免除されています。
申請者は、勤務開始日から少なくとも20日以上前に勤務先の管轄である労働傷病兵社会局に申請を行います。申請には、労働許可証申請書や履歴書等、規定フォームによる申請書以外に、以下の書類を準備する必要があります。

1.警察証明書(無犯罪証明書)
2.健康診断証明書
3.大学・大学院卒業証明書
4.証明写真

警察証明は、ベトナム滞在が6ヶ月未満の場合、ベトナムの日本大使館あるいは日本総領事館で申請取得することができます。ただし申請してから取得するまでに1~2ヶ月かかりますので、早めに取得申請手続きを行う必要があります。なお、ベトナム滞在が6ヶ月以上の場合は、ベトナムの司法局からの取得となります。
健康診断証明書は、ベトナムにある指定病院で労働許可証申請用の健康診断を受診し発行してもらいます。また最終学歴が中学・高校卒業場合、5年以上同職種での勤務経験が必要となるため、通常日本本社から、勤務経験を証明する文書を提出します。 全ての書類を準備し、その書類に不備が無い場合、申請後約1ヶ月で労働許可証を取得することができます。更新手続は、労働許可証の期限満了の30日前までであれば、更新用の申請書、労働許可書原本及び日本本社からの任命状を提出します。しかし、労働許可証の期限満了の30日前を過ぎると更新手続ができず、新規申請として再び申請し直さなければなりませんので、注意が必要です。

なお、近年労働許可証を取得せず、不法に就労している外国人が増加しています。そのため、ベトナム当局も厳しく取り締まっており、最悪のケースでは強制退去もありえますので、就労する場合は、必ず労働許可証を取得する必要があります。

■労働許可証の発行手数料
労働許可証にかかる手数料は、それぞれ下記の通りです。
・労働許可証の新規発行:40万ドン
・労働許可証の再発行:30万ドン
・労働許可証の延長:20万ドン

5.駐在員の給与設計

■日本-ベトナム間の給与格差問題
ベトナムに赴任する駐在員に対して給与を支払う場合、日本とベトナムで給与計算方法、適用税率に差があることから、その支給にあたっても一律日本と同様という訳にはいかず、給与額の設定、支給形態等の検討が必要です。

日本とベトナムには適用税率に差があるため、日本と同様の給与を支払うと手取給与額が低くなる場合があります。

日本では、課税所得が1,800万円に達しないかぎり、最高税率の40%は適用となりませんが、ベトナムでは、9億6千万ドン(約432万円)で最高税率適用となるため、支給給与額額が約2,600万円超など高額にならない限り、同額の給与を受け取った場合でも、ベトナムでの手取額のほうが低くなります。そのため、ベトナムに駐在員を赴任させる場合には、手取額を補償するためのグロスアップ計算をするケースが多くあります。なおベトナムには、給与所得控除はなく、基礎控除は1ヶ月400万ドン(4,800万ドン/年)となっています。

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