税務・税法
目次
1.バングラデシュにおける税務の概要 | ■バングラデシュの租税法 ■税目の種類 |
2. 個人所得税 | ■居住者の定義 ■所得金額 ■税額計算 ■最低代替税 ■申告・納付手続 |
3. 法人所得税 | ■納税義務者 ■課税所得の計算 ■税率 ■最低代替税 ■申告・納税方法 |
4.付加価値税(VAT) | ■納税義務者 ■VATの非課税取引 ■VATの免除 ■納付税額の計算 ■税率 ■申告・納付手続 ■タックスインボイス |
1.バングラデシュにおける税務の概要
■バングラデシュの租税法
バングラデシュでは、長らく1984年所得税条例(Income Tax Ordinance, 1984)が税法の根拠法として採用されてきました。同法では、法人所得税と個人所得税ともに「所得税」として規定しており、施行細則や実際の申告手続等を定めている1984年所得税規則(Income Tax Rules, 1984)、また歳入庁(NBR:National Board of Revenue)から不定期に発表される通達(SROs)に従って徴税されることになっています。 租税に関する規定や税率は毎年改正されており、財政法(Finance Acts/Ordinances)によって公表されます。 また、バングラデシュでは直接税法及び間接税法が改正され、2012年7月から施行されることが歳入庁より発表されています。
■税目の種類
バングラデシュの国内法においては、主に以下のような種類の税金が定められています。
税目 | 科目 | |
---|---|---|
直接税 | 所得税 | 法人所得税(Business Income Tax) |
個人所得税(Personal Income Tax) | ||
資産税類 | 贈与税(Gift Tax) | |
富裕税(Wealth Tax) | ||
その他 | 旅行税(Travel Tax)など | |
間接税 | 関税類 | 一般関税(Custom Duty)など |
流通税 | 付加価値税(Value Added Tax) |
2. バングラデシュの個人所得税
個人所得税を計算する場合、まずその対象となる人が「居住者」であるか「非居住者」であるか、つまりその対象者のバングラデシュにおける居住性を判断する必要があります。この居住性により、個人所得税が課税される収入の範囲が大きく異なってきます。
■居住者の定義
●居住性の判定
バングラデシュ国内において、滞在日数が182日以上又は90日以上滞在し、かつ、過去4年間の滞在日数が365日を超える場合は「居住者」、それ以外は「非居住者」と区分されます。居住者、非居住者の区分の違いにより、課税される所得の範囲は異なります。
●課税所得の範囲
居住者 | 非居住者 | |
---|---|---|
バングラデシュにおいて発生した所得(国内源泉所得) | 課税 | |
バングラデシュ以外の国で発生した所得(国外源泉所得) | 課税 | 非課税 |
なお、これらの所得については、所得の受領地や居住者・非居住者であるかどうかは問いません。上記国内源泉所得に該当しない所得が、国外源泉所得となります。
つまり、バングラデシュで「居住者」となった場合、バングラデシュ国内の所得だけでなく、その他の国で発生した所得についても、バングラデシュで課税されることになります。この場合、国外源泉所得の分だけ二重に課税されることになるため、「外国税額控除」の規定によりバングラデシュ側で納税額の調整を行うことになります。
ただし、日本の所得税法では、「国内に住所を有し、または現在まで引き継いで1年以上居所を有する個人」を居住者と定義していることから、特定の場合は、日本とバングラデシュの双方で居住者の認定を受け、所得税が両国で二重に課税されることになります。
このような場合には、両国間での租税条約に基づき、どちらの国で居住性を有するかを判断した上で、それぞれ税務上の申告・納税を行う形となります。
■所得金額
始めに、課税年度における全ての収入から、課税収入と非課税収入を区分する必要があります。課税収入については、以下の通り区分されます(直接税法第15条)。
・給与所得
・不動産所得
・農業所得
・(法人または個人)事業所得
・キャピタルゲイン
・その他の所得
総所得金額を計算する際には、それぞれの区分に応じ、その収入を得るために支出した金額として一定の金額を控除することができます。
■税額計算
上記で算出した総所得金額に対して、以下に示した累進税率を乗じて所得税額を算出します。なお、所得税率はそれぞれ、1.一般男性、2.女性・65歳以上の高齢者、3.身体障害者、4.非居住者、の区分により異なります。
■最低代替税
バングラデシュでは、個人所得税率の表において免税とされる納税者であったとしても、また、納税額が2,000タカ未満であった場合、最低代替税として2,000タカを納税する義務があります。
■申告・納付手続
①確定申告・納付
バングラデシュにおける所得課税は課税年度の所得について、その年の9月末までに所轄の税務署に申告・納税を行うことになります。
②中間申告・納付
前課税年度の所得が400,000タカ以上あった場合、もしくは、前年度に申告がなく、課税年度に所得が400,000タカを超えると予測される場合には、四半期ごとに税金を均等に分納しなければなりません(直接税法88条)。
期限については、第一四半期は9月15日、第二四半期は12月15日、第三四半期は3月15日、第四四半期は6月15日までとなっています(直接税法89条)。
3.バングラデシュの法人所得税
- ●納税義務者
- 課税所得の計算にあたっては、会計上で計上した個々の費用につき、税務上も所得から控除できる(損金算入)か、できないか(損金不算入)かの判断が非常に重要な点となります。
原則として、以下の2つの条件をいずれも満たす場合、全ての費用は損金として認められ、課税所得の計算上控除することが出来ることとされています。
・生産事業活動に直接起因及び関連する費用
・法律が要求する適切かつ完全な請求書及び証憑を添付した費用
税務上、損金算入が認められている費用は、適切かつ有効な費用または損失に限られます。つまり、所得の獲得に直接関与しない費用や、関連証憑による裏付けのない費用、または関連法令の条件を満たしていない費用は、税務上損金算入が認められません。
収益および費用の適正性ならびに有効性の判断については、税務署がその決定権を有しています。 - ■税率
- 課税所得金額に対し、以下の法人の種類別に規定されている税率を乗じて税額を算出します。
法人の種類 税率 ① 上場企業(③、④、⑤を除く) 27.5% ② 非上場企業(③、④、⑤を除く) 37.5% ③ 銀行、保険、その他金融機関 42.5% ④ 通信事業会社(非上場) 45.0% ⑤ 通信事業会社(上場) 35.0% - ■最低代替税
- 法人は収益または損失に関係なく、最低代替税として5,000タカを納税しなければなりません。
- ■申告・納税方法
-
①確定申告
全ての法人は、課税年度の末日から6カ月以内、または、翌年の7月15日のいずれか早い方を期限とし、当該課税年度にかかる法人税額を所轄税務署に申告し、納税しなければなりません。また、全ての法人の確定申告書には、監査済み決算報告書を添付する必要があります。②中間申告
前課税年度の所得金額が300,000タカ以上で、課税年度における所得金額が400,000タカを超えると予測される場合、もしくは、前年度に申告がなく、課税年度における所得金額が400,00タカを超えると予測される場合には、四半期ごとに申告、納税を行わなければなりません。
中間申告における税額は、前年度の税額を四分割し、該当年度に支払った税額を控除し、算出されます。
4.付加価値税(VAT)
付加価値税(Value Added Tax:VAT)とは、バングラデシュ国内における付加価値を課税対象とする税金であり、日本における消費税のように、バングラデシュにおいても物品の販売、役務の提供に際して、原則として15%の付加価値税が課税されます。
- ■納税義務者
- VATの負担者は最終消費者ですが、VATの納付義務を負うのは、物品の販売あるいはサービスの提供を行う事業者(VAT登録事業者)、ならびに物品の輸入者であり、個人・法人を問わず年間売上が2,000,000タカを超える者は納税義務があります。 ただし、前年度の年間売上が2,000,000タカ未満、かつ、保有設備が300,000のタカ未満の小規模事業者は納税義務が免除されます。
原則として、事業を開始する者は、事業開始前にVAT登録申請書を所轄税務署に申請します。この納税者登録をしていないと、VATの税額控除や還付請求をすることができないので注意が必要です。
- ■VATの非課税取引
- 法律上、別段の定めが無い限り、全ての物品とサービスが課税物品と課税サービスとなりますが、2011年付加価値税法法第21条において、以下に分類される物品とサービスについて、「非課税」として明記されています。
非課税物品の例
・食用品の供給又は輸入
・医薬品の供給又は輸入
・未加工の農産物、海産物の供給
・空き地の売却
・農業、園芸、水産業のために使用される土地の供給
非課税サービスの例
・保健、医療サービス
・教育サービス
・環境汚染防止活動
・出版サービス
・図書館、博物館、美術館サービス
・動物園、植物園サービス - ■VATの免除
- 上記、非課税取引とは別に、以下の物品及びサービスについては、VATの免除が認められています(2011年付加価値税法第20条)。
免税物品の例
・輸出品
・バングラデシュ国外で使用されるリース物品
・補修、修理等の理由で一時的に輸入される物品
・国際輸送のために使用される物品
免税サービスの例
・バングラデシュ国外の不動産サービス ・バングラデシュ国外で提供されるサービス
・バングラデシュ国外で使用される知的財産権
・インターキャリア通信サービス
・国際輸送に関するサービス - ■納付税額の計算
- バングラデシュ企業が顧客から販売・サービス等の対価を受け取る場合、その行われた事業の税率に応じた付加価値税(アウトプットVAT)を徴収し、また購入・サービス等の対価を支払う場合、同じくその行われた事業の税率に応じた付加価値税(インプットVAT)を支払うことになります。
- ■控除方式(インボイス方式)
控除方式は、毎月受け取ったアウトプットVATから、支払ったインプットVATを控除した差額を納付する方法です。
<計算式>
納付税額 = アウトプットVAT - インプットVAT
■税率 VATの税率は、会社の売り上げ規模によって適用税率が異なります。前年度の年間売上高が6,000,000タカ以上の場合は15%、6,000,000タカ未満の場合は3%が適用税率となります。年間売上高 税率 6,000,000タカ未満 3% 6,000,000タカ以上 15% ■申告・納付手続 VATの納税義務者は、納付すべきVATがある場合は、毎月15日までに電子申告を含む歳入庁が指定した様式に必要な項目を記載した申告書を所轄税務署へ提出し、納税を行う必要があります。
■タックスインボイス 付加価値税額の計算に際し、タックスインボイスは非常に重要となります。基本的に、このタックスインボイスに基づいて税額の計算が行われているため、その管理等について税務上規定が設けられています。