M&Aとは、企業価値を向上させるための手段の1つです。経営を取り巻く環境が刻々と変化するなか、企業は競争に打ち勝つために、不採算部門を売って、主力事業に資源を集中する「選択と集中」を進めます。その手段の1つとして、M&Aが有効です。
「選択と集中」を進めるために、M&Aを利用するメリットとしては、「時間」と「シナジー」が考えられます。
■時間
M&Aのメリットの1つは「時間を買う」ことにあるといえます。選択と集中を進める中で、企業は将来性のありそうな事業に資源の投資を行います。その際に、一から事業を立ち上げるとなると販売ルートの構築や人材の育成など長い時間がかかります。しかし、このような資源をすでに持っている企業をM&Aによって取得すれば、すぐに事業を立ち上げることが可能となります。経営を取り巻く環境の変化が加速している近年では、M&Aによってスピーディーに事業を展開することで、競合企業に対して大きなアドバンテージを握ることができます。
■シナジー
M&Aのもう一方のメリットは「シナジー」です。シナジーとは、相乗効果を意味します。企業が結合することで、1+1が2ではなく、3にも4にもなることをいいます。シナジーには以下のようなものがあります。
●規模の経済性
規模の経済性とは、規模が大きくなるに従って、製品1個当たりの生産費用が低下することをいいます。これは、生産費用に固定費が含まれているためです。生産費用は変動費と固定費に分けることができます。変動費とは、製品の生産量に従って増える費用をいいます。例えば、原材料費、販売手数料、運送費などがあります。これに対して、固定費は製品の生産量に関わらず発生する費用をいいます。例えば、減価償却費、賃貸料、保険料などがあります。固定費は、生産量が増えても変化しません。よって、M&Aによって企業の規模が拡大し、生産量が増えるほど製品1個当たりの固定費が低下します。
●範囲の経済性
範囲の経済性とは、企業が複数の事業活動を持つことにより、より経済的な事業運営が可能になることをいいます。企業が既存事業において有する販売チャネル、ブランド、固有技術、生産設備などの経営資源を、他の複数事業と共有することなどがあります。例えば、ビール会社の医薬品事業への展開は、バイオ事業を共有資源として活用することにより多角化を図る、範囲の経済の典型といえます。他にも、コンビニエンスストアがATMの設置や宅配便の拠点として利用されていることも1つの例と言えます。
●経営資源の補完
経営資源の補完とは、例えば、A社の弱点をB社の強みが補い、B社の弱みをA社の強みが補うことで、企業価値が高まることをいいます。例えば、自社にはない特殊な技術や人材をM&Aによって取得することは経営資源の補完と言えます。新興国におけるクロスボーダーのM&Aでは、日本企業が現地企業の販売チャネルや既存顧客を取得し、現地企業が日本企業の高い技術力を取りこむことでお互いを補完する例が多く見られます。
●垂直統合の経済性
垂直統合の経済性とは、販売業務と生産業務を社内に取り込むことで、効率性を高めることをいいます。販売業務と生産業務を同時に行うことで、販売部門の情報がより生産部門に伝わりやすくなります。このため、より顧客のニーズに合った製品を生産することが可能になります。例えば、自動車メーカーが自動車販売会社、部品供給会社M&Aにより取得することなどが例としてあります。
●重複コストの削減
例えば、総務、経理、人事などの管理部門は、合併などによって統合することで余剰人員が発生します。この余剰人員を削減することで、人件費を減らすことができます。また、販売拠点なども、合併などによって重複する部分が発生します。この重複部分を廃棄することで、経営効率を高めることができます。
●財務シナジー
M&Aによって、規模が拡大することで財務的なコストの節約が可能になります。例えば、金融機関から資金調達をする際、信用リスクを評価されます。信用リスクは一般的に企業規模が大きいほど低下します。このため、M&Aにより企業規模が拡大することで、企業のファイナンス能力が高まります。ファイナンス能力の向上により調達資金の額が大きくなることで、調達金額に対する取引費用が低下します。また、支払利息の増加による節税効果、新たな投資機会の創出による企業価値の向上なども期待できます。
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