ベトナム進出支援

ベトナムの会社法

目次

1.会社の機関 ■会社の機関
2.有限会社 ■一人有限会社 / ■二人以上有限会社 / ■社員総会
■社員総会の召集 / ■社員総会の決議 / ■社員の権利
3.株式会社 ■株式会社の機関体系 / ■株主総会 / ■株主(総会)の権利・義務 ■招集方法 / ■株主総会決議要件 / ■株主総会の議事録 ■取締役(会)
4.株式 ■普通株式 / ■優先株式 / ■配当 / ■配当支払の手続 ■社債の発行 / ■資本金の増資・減資

1.会社の機関

■会社の機関
ベトナムの会社法務における重要な法律として、「統一企業法」があります。統一企業法では、企業の機関設計、決議方法、組織運営の方法などについて規定しており、日本の会社法にあたります。この章では最も一般的な会社形態である有限会社と株式会社について述べていきます。 統一企業法では、会社の種類、各会社の種類に応じて義務付けられる機関の設置、社員(有限会社における出資者)および株主の権利と義務、各機関構成員の資格や権限を定めています。統一企業法の設定以前は、日本企業を含めた外国企業がベトナムに進出する際、有限会社の形態しか取ることができませんでした。 しかし、統一企業法の適用後は、外資企業も株式会社の設立が可能になり、株式会社の形態をとっている外国企業も増えてきています。主に外国企業がベトナムに進出する際は、有限会社または株式会社が一般的です。

2.有限会社

有限会社は、ベトナムでは最も一般的な会社形態です。これまで進出している日系企業の90%以上が有限会社といわれています。 有限会社の特徴として、出資者である社員は、法人でも個人でもなることができますが、株式を発行することができず、社員の総数が最大で50名に限定されます。社員は、企業への出資額の範囲内で、企業の債務及びその他支払義務に対して責任を負います。 一人の出資者による形態は一人有限会社、二人以上の出資者による形態は二人以上有限会社と、統一企業法上、分けて記載されており(一人有限会社は63条~76条、二人以上有限会社は38条~62条にそれぞれ規定)、会社の機関設計が異なりますので、それぞれの会社に合った形態を把握した上で、選択する必要があります。

■一人有限会社
一人有限会社は、出資者が1名の会社であり、会社の機関設計は、会長、社長、監査役により構成されます。
出資者は、出資者に代わる委任代表者を選任します。通常は1名を選任し、その委任代表者がそのまま会長となります。また委任代表者を複数選任することもでき、この場合は委任代表者により構成される社員総会が最高意思決定機関となります。 会長とは、出資者に代わり会社を代表して業務を遂行する者をいいます。
また社長とは、会長(委任代表者が複数の場合は社員総会)により任命され、事業活動の運営および会長(もしくは社員総会)により意思決定された事項の執行を行います。 法的代表者(サイン権者)は、会長もしくは社長から選択することができ、定款に記載します。法的代表者は国籍の制限はありませんが、ベトナム常駐の要件があり、30日以上ベトナム国外に滞在する場合には、委任状を書面で提出する必要があります。 また、出資者は監査役を1~3名任命しなければならず、監査役は、会社運営における法令順守状況を監督します。

■二人以上有限会社
二人以上有限会社は、出資者が2~50名の会社で、社員総会、会長、社長により構成され、一定の要件を満たす場合には監査役会を設置しなければなりません。
会社の意思決定は、出資者全員により構成される社員総会によって行われます。会長及び社長は社員総会において1名を出資者の中から、選任します。それぞれの役割は一人有限会社と同様です。 会社への出資者が11名以上の場合、監査役会の設置が必要となります。

■社員総会
社員総会は、有限会社の社員全員で構成される、会社の最高意思決定機関です。組織である社員は、委任代表者を派遣し、社員総会に参加させます。社員総会は、毎年最低一回開催する必要があります。定款に異なる規定がある場合を除き、社員総会の会議は、会社の本社において行う必要があります。

■社員総会の権限
社員総会は、以下に掲げる事項についての権限を有します(47条)。

■社員総会の招集
会長及び出資総額の25%以上、もしくは定款に定めた比率以上の出資をしている社員は、必要に応じて、社員総会を招集することができます。
社員総会を開催するためには定足数要件を満たさなければなりません(51条)。
社員総会を開催するためには、二人以上有限会社の場合、定款に記載された出資総額の75%以上の出資者の出席が必要になります。招集をしたにも関わらず定足数に満たなかった場合には、その開催予定日から15日以内に再招集を行い、この場合は出資総額の50%以上の出資者が集まれば開催することができます(定款で変更可能)。それでも定足数に足りない場合、10日以内に招集をする必要があり、この場合には定足数の要件はなく、開催することができます。

一方、複数の委任代表者がいる一人有限会社の場合、出資総額の3分の2以上の社員が出席する場合には、社員総会を開催することができます。

■社員総会の決議
社員総会の決議には、普通決議と特別決議があります。
普通決議では、決算書類の承認や、会長、社長などの役員の選解任を決議します。一方、特別決議では、定款の変更や重要な財産の処分、組織再編等、会社の重要事項について決議します。
二人以上有限会社において、普通決議では、出席者の出資総額の65%以上の賛成が必要となります。特別決議の場合には要件が厳しくなり、出席者の出資総額の75%以上の賛成がなければなりません(52条)。 複数の委任代表者がいる一人有限会社の場合、普通決議では、出席社員の過半数の賛成により決議されます。特別決議では、出席社員の4分の3以上の賛成が必要となります(68条)。
ただし、定款に定めることで、要件を厳しくすることができます。その反対に要件を緩めることはできない点に注意が必要です。
また一定の事項を除き、書面による意思決定を行うことができます。この場合、賛成する社員の出資総額が定款に定めた会社の出資総額の65%以上であれば、社員総会の決議が行われたことになります(52条)。
このように、二人以上有限会社では、普通決議でも出資総額の65%以上の賛成が必要とされますので、過半数の出資をしているからといっても単独で意思決定をすることはできない点が、ベトナムの社員総会決議の特徴となります。

■社員の権利
有限会社の出資者である社員は以下の権利を有します。利益の分配を受ける権利(自益権)と、出資額に応じた議決権(共益権)が保障されており、このような権利の行使を通じて、自らの利益を図ることができます。

3.株式会社

株式会社とは、以下のような特徴を持つ会社形態です(77条)。
①会社の資本が複数に分けられ、個々が持分として株式を保有します。
②株主は、組織でも個人でも認められ、株主の人数は、最低3名であり、上限はありません。
③株主は、会社への出資額の範囲内で企業の債務及び財産上の義務についてのみ責任を負います(間接有限責任)。
④株主は、議決権優先株式等を除き、株式を自由に譲渡することができます。

株式会社と有限会社の最も大きな違いは、株式を発行し、株主(出資者)が自分の出資持分を自由に他者に譲渡できる点にあります。

■株式会社の機関体系
株式会社は、株主総会、取締役会、社長等をの機関を設置しなくてはなりません。さらに、①個人である株主が11名以上いる場合、または②会社の総株式の50%以上を所有する法人株主を持つ場合には、監査役会を設置する必要があります(95条)。 監査役会を設置する場合は、その過半数がベトナムに常駐していること、及び1名は会計士もしくは会計監査官である必要があります(121条)。

■株主総会
株主総会は、定時株主総会と臨時株主総会の2つの種類があります。 定時株主総会は、毎年1回以上、決算日以後4ヵ月以内にベトナム国内で開催しなければなりません。取締役会の要請がある場合、その期限を延長することができますが、決算日以後6ヶ月を越えることはできません(97条)。定時株主総会では、決算書の承認や、配当の決定などを決議します。 一方、臨時株主総会は、取締役が必要と認めた場合に開催されます。また、一定の事項が発生した場合には、取締役会は臨時株主総会を招集する義務を負います。取締役会は、招集義務を生じさせる事実が発生してから30日以内に総会を招集しなければならず、期限内に開催されない場合は、監査役会が招集する義務を負います。それでも招集がされない時には、6か月以上の期間継続して10%以上の株式を保有する株主が、総会の招集をすることができます。

■株主(総会)の権利・義務
株主総会は、議決権を持つ株主全員から構成され、株式会社において最高権力をもつ機関であります。株主総会の具体的な権限及び任務は以下の通りです(96条)。

■招集方法
株主総会の招集を行う取締役は、株主総会に出席する権利をもつ株主名簿の作成、総会の議題及び開催日時の決定、日程表の準備、会議用資料の準備、出席権利をもつ株主への招待状の送付などを行わなければなりません(99条)。
正式な議題が決定した後、出席する権利をもつ株主全員に対し、総会開催日の7日前までに招集通知を送付する必要があります(100条)。招集通知は原則として、株主の住所に到着するように送付しなければならず、開催日時、場所だけでなく議題や参考資料を添付する必要があります。また会社のホームページにも掲載しなければならないとされています。
また、6か月以上連続して10%以上の株式を保有する株主は、株主総会の議題を提案する権利を持ち、提案がある場合は、総会の3日前までに会社に書面にて送付する必要があります。その後、取締役会によって、会議の日程表と議題へ正式に組み込みこまれます(99条)。

■株主総会決議要件
主総会の議題を決議するには、定足数を満たした上で、総会出席者の一定数以上の同意を得る必要があります。
定足数に関しては、会議に出席する株主の議決権付株式の合計が65%以上に達せば、株主総会を開会することができます。定足数に満たず総会を開催できなかった場合、開会予定日より30日以内に、再度総会を招集する必要があります。その場合、会議に出席する株主の議決権付株式の合計が51%以上に達せば、開催することができます。
さらにこの要件を満たさなかった場合は、その開会予定日より30日以内に、再々度総会を招集する必要があります。その場合は、出席する株主の人数を問わず、総会を開催することができます(102条)。

株主総会の決議には普通決議と特別決議の2つの種類があり、それぞれ決議要件が異なります。普通決議では、議決権株式の65%以上の賛成が必要であり、特別決議では、議決権株式の75%以上の賛成によって決議されます(104条)。定款に定めることで要件を厳しくすることができますが、要件を緩和することはできません。

なお、議決権付株式の総数の100%の株主の同意を得た場合は、招集手続・手順・会議の日程表・議題と進行形式が規定に従わなかった場合でも効力を有することができます。

■株主総会の議事録
株主総会ではベトナム語で議事録を作成する必要があります。ベトナム語版と外国語の両方で作成することが可能ですが、主に以下のような内容を記載する必要があり(106条)、議事録には議長の署名がなければなりません。

■取締役(会)
取締役会は、株主総会の決議事項以外の全ての決定権をもち、会社の権利と義務を行使する機関です。取締役会は、3名から11名で構成され、ベトナムに常駐しなければならない取締役の人数は、定款に規定することができます。任期は5年以内であり、再任することもできます(109条)。 取締役になるためには以下の資格及び条件のいずれかを満たす必要があります(110条)。 ①十分な民事能力を有する者 ②会社の普通株式総数の5%以上を保有する個人株主、あるいは会社の主たる業務について専門知識及び経験を持つ者、定款に定める要件を満たす者 ③国が50%以上の出資を行う会社の子会社の場合、その親会社の役員と関係を持たない者、及び役員を任命する権限を持たない者 取締役会は、3ヶ月に1回以上開催されなければならず、業務の意思決定と執行状況の監督が主な役割となります。統一企業法に定められる取締役の権限及び義務は以下の通りです(108条)。

4.株式

株式の種類は主に普通株式と優先株式があります(78条)。優先株式の中には、議決権優先株式、配当優先株式、償還優先株式などがあります。

■普通株式
取締役会は、株主総会の決議事項以外の全ての決定権をもち、会社の権利と義務を行使する機関です。取締役会は、3名から11名で構成され、ベトナムに常駐しなければならない取締役の人数は、定款に規定することができます。任期は5年以内であり、再任することもできます(109条)。 取締役になるためには以下の資格及び条件のいずれかを満たす必要があります(110条)。 ①十分な民事能力を有する者 ②会社の普通株式総数の5%以上を保有する個人株主、あるいは会社の主たる業務について専門知識及び経験を持つ者、定款に定める要件を満たす者 ③国が50%以上の出資を行う会社の子会社の場合、その親会社の役員と関係を持たない者、及び役員を任命する権限を持たない者 取締役会は、3ヶ月に1回以上開催されなければならず、業務の意思決定と執行状況の監督が主な役割となります。統一企業法に定められる取締役の権限及び義務は以下の通りです(108条)。

■優先株式

●議決権優先株式(81条)
議決権優先株式とは、普通株式より多い票数を有する株式をいいます。議決権優先株式に付いての票数は、定款にあらかじめ規定しておく必要があります。 議決権優先株式の株主は、定款に規定される票数を投票することができますが、他者へ譲渡することができません。また所有者は政府の委任を受けた組織または発起株主に限定されます。

●配当優先株式(82条)
配当優先株式とは、普通株式に比べて優先して配当を受ける権利を有する株式をいいます。配当の種類は固定配当と特別配当の2種類があります。固定配当とは、会社の業績に関係なく一定額の配当を受ける権利を有する株式をいい、特別配当はそれ以外の優先配当株式をいいます。 実際の配当金の算定方法は、あらかじめ定めた配当優先株式の内容によります。 配当優先株式は、普通株式に比べて配当を受け取れるというメリットがありますが、株主総会への出席権・議決権を持ちません。 したがって、日本でいうところの、配当優先株式(日本会社法108条1項1号2号)と完全無議決権株式(日本会社法108条1項3号)を組み合わせた混合株式と同じような株式と考えられます。

●償還優先株式(83条)
償還優先株主とは、株主が要求した場合、あるいはあらかじめ定めた事実が発生した場合に、いかなる時点であっても出資の払い戻しを受けることができる株式をいいます。 配当優先株式と同様に、議決権及び株主総会への出席権はありません。 日本でいうところの取得請求権付株式(日本会社法108条1項5号)、ないし取得条項付株式(日本会社法108条1項6号)と完全無議決権株式を組み合わせた混合株と同じ性質をもった株式と考えることができます。

■配当

●配当支払の要件
償還優先株主とは、株主が要求した場合、あるいはあらかじめ定めた事実が発生した場合に、いかなる時点であっても出資の払い戻しを受けることができる株式をいいます。 配当優先株式と同様に、議決権及び株主総会への出席権はありません。 日本でいうところの取得請求権付株式(日本会社法108条1項5号)、ないし取得条項付株式(日本会社法108条1項6号)と完全無議決権株式を組み合わせた混合株と同じ性質をもった株式と考えることができます。

上記の規定に反して配当が行われた場合には、配当を受けた株主は会社へ返還する義務を負います。返還しない株主及び取締役は、返還しない金額の範囲内で会社が負う債務に対して連帯して責任を負うことになります。

■社債の発行
株式会社は、社債、転換社債、定款及び法律に従うその他の社債を発行することができます(88条)。ただし、以下の場合は、社債を発行することができません。 ①直前の3年間、発行した社債の元金と利息、あるいは支払期限を超えた債務の支払いができていない場合
②直前の3年間、税引後の平均利益率が発行予定社債の利息を下回っている場合

金融機関である債権者に対する社債の発行は、①と②の規制を受けません。
なお、取締役会は、社債の種類、社債の総価値及び発行時点を決定することができますが、次回の会議で株主総会に報告する必要があります。報告書と共に、社債の発行に関する取締役会の決定を説明する資料・書類を提出しなくてはなりません。

■資本金の増資・減資
株式会社の資本金の増資及び減資は、諸手続きを定款に定めることで可能です。具体的には以下の方法があります。

■増資
①取締役会の決議に基づき、第三者に対する新規募集を行う。
②既存株主への新株割当を行う。
③株主から買い戻した株式について新たな売出しを行う。

上記どの増資方法であっても、発行価格が市場価格を下回らないことが条件となります。また、株主総会で決定した発行可能な株式の種類および発行可能範囲内で、取締役会の決議に基づいて、増資を実行できます。

■減資
減資を実施するためには、計画投資局の承認が必要です。また株式の買取りにより会社の純資産の減少をもたらすため、債権者保護手続きをとる必要があります。具体的には以下の手続きを要します。 ①減資後も債務返済が可能である旨を保証する。 ②減資により純資産が10%以上変動する場合は、減資後、債権者に通知する。

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