税務・税法
目次
1.シンガポールの租税体系 | ■税目の種類 |
2. 個人所得税 | ■個人所得税の概要 / ■税率 / ■申告・納付手続 / ■申告・納付 |
3. 法人所得税 | ■納税義務者 / ■課税所得の計算 / ■税額計算 / ■確定申告 |
4.国際税務 | ■外国税額控除 / ■租税条約に基づく外国税額控除 / ■片務的税額控除 / ■プーリング制度 |
1.シンガポールの租税体系
■税目の種類
シンガポールには、地方税や市民税はなく、すべて国税となっており、主な種類は以下の通りです。
- ・法人税
- ・個人所得税
- ・財貨及びサービス税(GST)
- ・遺産税
- ・固定資産税
- ・印紙税
- ・関税(輸入税、物品税)
- ・外国人労働者税、技術開発税
- ・自動車関連税(登録税、追加登録税、道路税)
このうち法人税と個人所得税については、所得税法に規定されています。また、日本でいう施行令、施行規則、基本通達、個別通達、および租税特別措置法などの詳細な規定はありません。従来から、判例や慣習に基づいて税務行政が執行されていることが少なくありません。しかし、1993年から税務当局はInterpretation and Practice(解釈と実践)を公表しており、税務行政解釈のあいまいさを減らすよう明確化を進めています。
2. シンガポールの個人所得税
■個人所得税の概要
所得税を計算する場合、対象となる納税者が「居住者」であるか、「非居住者」であるかにより、課税される所得の範囲が異なってきます。したがって、所得税を計算する際には、まず居住性の判断が必要となります。
■個人所得税の税率
■シンガポールにおける所得税額の計算
年間課税所得 |
税率 |
|||||||
0 |
~ |
30,000 |
|
|
|
20,000 |
を超える部分に対し |
2.0% |
30,001 |
~ |
40,000 |
|
200 |
+ |
30,000 |
を超える部分に対し |
3.5% |
40,001 |
~ |
80,000 |
|
550 |
+ |
40,000 |
を超える部分に対し |
7.0% |
80,001 |
~ |
120,000 |
|
3,350 |
+ |
80,000 |
を超える部分に対し |
11.5% |
120,001 |
~ |
160,000 |
|
7,950 |
+ |
120,000 |
を超える部分に対し |
15.0% |
160,001 |
~ |
200,000 |
|
13,950 |
+ |
160,000 |
を超える部分に対し |
17.0% |
200,001 |
~ |
320,000 |
|
20,750 |
+ |
200,000 |
を超える部分に対し |
18.0% |
320,001 |
~ |
|
|
42,350 |
+ |
320,000 |
を超える部分に対し |
20.0% |
【計算例】 所得がS$36,000の場合、 最初のS$30,000がS$200の所得税 残りS$6,000 ×3.5% = S$210 となり 合計個人所得税額としてS$410が納税すべき金額となります。
■申告・納付手続
- ●賦課課税制度
- シンガポールでは、賦課課税制度が採用されおり、納税者から提出された申告書をもとに、税務当局が査定し税額を賦課決定します。必要に応じて税務調査を行い、その上で最終税額を賦課決定するため、時間を要します。 よって、日本で採用されている自主申告方式とシンガポールで採用されている賦課課税方式とでは、手続に実質的に異なるところがありません。両方式とも納税者が申告書を作成し、税務当局に提出します。ただし、最終税額を確定する者が異なっており、自主申告方式は納税者、賦課課税方式は税務当局が、最終税額を確定します。
- ■申告・納付
[申告方法]
シンガポールでの個人所得税の申告には、所定の用紙に直接記入するものと、e-Filingという電子申告の2種類があります。
IRASは電子申告を奨励しているため、最近では、申告書自体が送られてくることは少なく、電子申告用のパスワード等が送られてくるだけとなっています。[納付スケジュール]
シンガポールにおける個人所得税の課税対象期間は1月1日から12月31日となり、当該賦課年度の翌年の2月末までに税務当局からForm B1(居住者用)が送付されてきます。また、雇用主はForm IR8A(雇用主からの給与支払明細書)を作成し、従業員に交付します。
納税義務者は4月15日 (e-Filingでの申告の場合は4月18日)までに所轄の税務署に申告をする必要があります。- <
[納付]
賦課決定通知到着後、発効日から1カ月以内に賦課決定額を納めることになります。ただし、分割納付が認められており、GIRO(銀行口座自動引落)という、銀行口座から自動引き落としが出来るサービスを利用することで、最大12回まで分割納付することが可能です。
なお、納めるべき税金を延滞した場合には、納税額の5%相当の延滞税が課されることになります。
【申告・納付スケジュール】
3.シンガポールの法人所得税
- ●納税義務者
- シンガポールにおいては、管理支配地主義により居住地が決定されています。シンガポール国内において会社法に基づき設立された会社は、日本などの外国資本であっても居住法人として扱われます。しかし、シンガポールの会社法に基づいて設立されたかにかかわらず、シンガポール以外の外国で株主総会や取締役会が開催され、かつ業務執行の運営・管理が行われている場合には、シンガポール税法上、非居住法人となります。 シンガポールの税制上、居住者は優遇されており、非居住者は新会社に対する免税措置、国外源泉所得に対する免税措置、二重課税回避条約に基づく源泉税等の減免が適用されません。また、居住者の判定は、各賦課年度になされています。
- ■課税所得の計算
- 歳入法における課税所得とは、一般的に1会計期間(通常は事業年度)に営まれた事業に係るすべての益金からすべての損金を差し引いて算定されます。事業年度は、原則12カ月とされています。 また益金及び損金は、発生主義により算定されるため、当該事業年度に生じたすべての益金はその授受にかかわらず、損金はその支払いの有無にかかわらず所得金額の算定に含めることになります。
- ■税額計算
- 課税所得を500,000SGDと仮定した場合、2012年度までは実効税率が約11.8%だったのに対し、2013年度より約8.3%になっており、さらに低い税率となっています。
項目 |
計算式 |
額 |
課税所得 |
- |
500,000SGD |
部分免税 |
①10,000SGD×75%=7,500SGD |
①+②152,500SGD |
部分免税後課税所得 |
- |
347,500SGD |
法人所得税額 |
347,500×17%=59,075SGD |
59,075SGD |
項目 |
計算式 |
額 |
法人所得税額 |
59,075SGD×(1-30%) |
41,353SGD |
※2012年度までの法人所得税額から、さらに30%減税されます。
- ■確定申告
- 決算日後、見積課税所得額(ECI:Estimated Chargeable Income)及び納税見積額をシンガポール内国歳入庁(IRAS)に提出し、予定納税します。後に法人税申告書(FormC)の提出により法人税額を確定させ、予定納税額との差額を納付します。
[予定納税]
すべての会社は、事業年度の末日から3カ月以内に、IRASへ当該事業年度にかかるECI及び見積納税額の申告を行わなければなりません。
ECIの提出後、数カ月でIRAS より賦課決定通知(NOA:Notice of Assessment) が送付され ます。NOAは課税対象期間による収益を基に予測額として当局より送られてくるため、後の確定した法人税額と差異が生じる場合は調整を行う流れとなります。
なお、年間の収益がS$100万以下の企業である場合、ECIの申告は不要となります。ただし、賦課年度2013年においては、会計期間末が2012年10月以降となる企業のみの適用となります。[申告期限]
毎年、4月にForm CがIRASより送付されてきます。11月30日までに監査済決算書、法人税計算書(Tax Computation)を添付しForm Cを提出しなければなりません。なお、Form Cが4月30日までに送付されなかった場合には、税務当局のウェブサイトからダウンロードして利用するか、税務当局に申告書の送付を求めなければなりません。[法人税の納税]
Form Cを提出してから数カ月後にNOAが送付されてきます。予定納税額と通知法人税額の差額の納付もしくは還付がなされることとなり、納付の場合は、NOAの発行日より30日以内に当該差額を納税しなければなりません。【申告スケジュール】
- ①CEI申告期限(決算日より3カ月後)
- ②納税期限(NOA発行日の30日後)
- ③FormC提出期限(11月30日)
- ④納税期限(NOA発行日の30日後)
4.シンガポールの国際税務
- ■外国税額控除
- 外国税額控除(FTC:foreign tax credit )とは、国外源泉所得に対して、国外において納付した税額を居住地国の税額から控除することにより、国際的な所得の二重課税を調整するための方法として定められた制度です。
【外国税額控除の仕組み】/p>
- ■租税条約に基づく外国税額控除(DTR:Double Taxation Agreement)
- シンガポール居住法人は、租税条約に基づき、締結国において発生した国外源泉所得に対し課税され、締結国に納付した外国税額の控除を申請することができます。
- ■片務的税額控除(UTC:Unilateral Tax Credit)
- シンガポール居住法人は、租税条約を締結していない国において発生した国外源泉所得に対し課税され、納付した外国税額の控除を申請することができます。 ただし、外国税額控除を申請するためには以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。 ・賦課年度においてシンガポール居住者である ・国外において外国課税がすでに支払われているまたは支払われる予定になっている ・当該所得がシンガポールにおいて課税対象となっている
- ■プーリング制度
- 2012賦課年度から採用された制度であり、国外源泉所得に対する課税の簡略化と減税を目的として導入されました。当該制度はシンガポールを地域統括拠点として事業活動をしていく際の1つのインセンティブとなります。
プーリング方式を適用するためには、次の要件を満たさなければなりません。
・国外源泉所得がその源泉地国で課税されていること
・シンガポールにて国外源泉所得が取得された時点において、当該所得の源泉地国の最高法人税率が15%以上であること
・国外源泉所得がシンガポールにおいて課税対象となっているかつ、外国税額控除を適用する資格があること
[計算方法]
プーリング制度による外交税額控除の適用金額は、外国法人税の合計額と、国外源泉所得に対してシンガポールにおいて課せられる法人税額のいずれか少ない方となっています。【外国税額控除制度とプーリング制度の比較(単位:S$)】 <項目
現行の外国税額控除制度
プーリング制度
外国企業A
外国企業B
合計
合計
国外源泉所得
10,000
20,000
30,000
30,000
外国法人税
500
5,000
5,500
5,500
シンガポールにおいて課税される法人税(17%)
1,700
3,400
5,100
5,100
有効な外国税額控除
(外国法人税、シンガポール法人税のいずれか少ない方)500
3,400
3,900
5,100
外国税額控除後に課されるシンガポール法人税額
-
-
1,200
0
減税効果額
-
-
-
1,200