労務・労働法
目次
1.シンガポールの労働法 | ■労働基準関係法令 / ■労働時間 / ■休日 |
2.雇用契約と就業規則 | ■雇用契約 / ■就業規則 |
3.日本人が駐留する際の留意点 | ■雇用許可書 / ■S Pass / ■労働許可証 / ■Personalized Employment Pass(PEP) / ■外国人労働者雇用法 |
1.シンガポールの労働法
■労働基準関係法令
●シンガポールの雇用法
シンガポールの雇用法は、労働者の解雇、給与の支払い、労使間の権利義務の明確化など、労働者の一般的な労働条件を目的に制定されています。直近では2009年に法改正が行われましたが、新たに2014年度においても雇用法の改正が予定されています。昨今の賃金上昇等を踏まえ、時間外労働に対する手当が発生する労働者の適用範囲の変更など、労働者保護の性質が強まることが予定されています。
シンガポールの雇用法の特徴として、注意しなければならない点は、すべての労働者がシンガポール雇用法の適用範囲とされるわけでは無いという点になります。雇用法の適用範囲内か範囲外かということで一点の基準が設けられており、範囲外に該当する労働者については、雇用法自体が適用されず、時間外労働に対する手当や休日労働に対する手当の他に有給の付与などについても適用されないことになります。雇用法の適用外に該当する労働者を雇用する場合には、会社と労働者間で個別に同意した報酬や福利厚生にて契約書を作成する必要があります。
雇用法適用の有無は「雇用関係」が基準となります。雇用法では「雇用関係」にある者か、それともIndependent Contractorとして、雇用関係にない者かで大別され、後者のIndependent Contractorの場合は単なるサービス契約にすぎないため、雇用関係がなく雇用法の適用はありません。
しかし、雇用関係がある者でも、以下の労働者については適用除外となります。
・船員
・家事手伝い
・管理職、上級職、守秘義務を負う職種に該当する労働者
・その他政府が指定する職種の者
項目 |
日本 |
シンガポール |
雇用契約 |
書面・口頭いずれでも可。 |
書面・口頭いずれでも可 |
最低賃金 |
1時間850円 |
なし |
有給休暇 |
年次有給休暇 |
年次有給休暇 |
労働時間 |
1日8時間 |
1日8時間 |
産前産後休暇 |
期間 |
期間 |
雇用契約の終了 |
以下のいずれかによる ・30日前に解雇を予告 |
以下のいずれかによる |
雇用の保護 |
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、権利を濫用したものとして無効となる。 |
予告通知期間さえ守れば、解雇のために正当事由が必要であるという条項はない。 |
解雇理由の明示 |
労働基準法22条において、労働者が解雇の理由に関する証明書を使用者に請求した場合、使用者は遅滞なく、これを交付しなければならない。 |
定めなし(原則不要) |
時間外労働の割増賃金 |
通常の労働時間に対して支払われている賃金の2割5分以上5割以下の範囲内で、政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を、労働者に支払わなければならない。 |
基本賃金の1.5倍の賃金を労働者に支払わなくてはならない。なお基本賃金は、月給制の雇用者の場合月額賃金を12倍しそれを44時間×52週間で割ることで求める。 |
■労働時間
原則シンガポールの1日の法定労働時間は8時間まで、週の法定労働時間は44時間までとされています。連続6時間を超えて仕事をする場合には、会社は必ず休憩時間を設けなければなりません。ただし、週の労働日数が5日の場合には、1日の労働時間を9時間まで延長することができます。その場合であっても週の法定労働時間は変わらず44時間とされています。
上記の1日の法定労働時間または週の法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合には、割増賃金として、基本賃金の1.5倍の賃金を支払う必要があります。
■休日
会社は労働者に少なくとも1週間に1日、法定の休日を与えなければなりません。法定休日は、Rest Dayと呼ばれ日曜日に設定されているケースが多くなっておりますが、日曜日以外の曜日に法定休日を設定することも可能です。シンガポールでは、日本と同様週休2日制を取っている会社が多くなっており、その場合、法定休日以外の休日については、Off Dayと呼ばれ、法定休日であるRest Dayと明確に区別されています。
法定休日であるRest Dayに労働者を働かせた場合には、会社は割増賃金として通常の賃金の2倍の賃金を支払わなければならないとされていますが、Off Dayに労働者を働かせた場合には、時間外労働と同様の取扱いと定められておりますので、会社は割増賃金として通常の賃金の1.5倍の賃金を支払えば良いことになります。
2. 雇用契約と就業規則
■雇用契約
シンガポールでは、雇用契約は書面または口頭により締結されます。ただし、多くの企業では紛争を回避するために書面による契約にしています。期間については、雇用者と労働者との合意した期間となり、労働契約の内容は、労働者の職務内容、勤務時間、有給休暇、雇用期間(開始および終了)、報酬、賞与、昇給などがあります。また、日本の労働契約書をそのまま使用した時などは、シンガポールの労働法制や実務にそぐわないことが多くあります。
■就業規則
日本では、10人以上の従業員を雇用した場合には、就業規則の作成が義務付けられておりますが、シンガポールでは従業員の雇用数等に関係無く、就業規則の作成義務はありません。ただし、運用上は就業規則を定めて労働者の権利を明確にしているケースが多くなっています。
ただし、運用上は就業規則を備えている場合が多いのが一般的です。
3. 日本人が駐留する際の留意点
■外国人労働許可
原則として、シンガポールで就労する外国人は全員、管理・専門職向けの雇用許可書(Employment Pass)、中級レベルの熟練労働者向け(S Pass)、低技能向け労働許可書(Work Permit)のいずれかを申請しなければなりません。
■雇用許可書
雇用許可書は、月給が2,800シンガポールドルを超える外国人で、認定専門資格の保有者が適用の対象になります。雇用許可書は、基本月給、役職、専門資格に応じて次の3つに分類されます。
名称 |
対象者 |
P1 |
基本月給が8,000シンガポールドルを超える者 |
P2 |
基本月給が4,000シンガポールドルを超える者 |
Q1 |
基本月給が2,800シンガポールドルを超える者 |
雇用許可書の申請にあたっては、原則的にシンガポール政府が認知した大学の卒業資格を有していることが申請資格要件となります。シンガポール人材省(MOM:Ministry Of Manpower)は認定大学の公開を取り止めましたが、雇用許可書および S Passの自己査定ツールをウェブサイト上(http://www.mom.gov.sg/Pages/default.aspx)で提供しており、申請に先立ち自己査定の実施を推奨しています。
雇用許可書を取得するには、現地企業による推薦・保証が必要になります。そのため申請書には、雇用者について記載する欄があり、さらにその労働者が送還されることになった場合は、雇用者が費用を負担することになります。MOMは、申請者を審査することはもちろんですが、雇用者の信用も調査し雇用許可書の発給を決定します。
雇用許可書の発給が決定されると、暫定許可証が郵送され、この通知書の有効期限内(6カ月)に初回申請をすることになります。初回申請後の雇用許可書の有効期限は最大2年間で、更新時は最高5年間まで付与されます。申請が却下された場合、1カ月以内であれば再申請を行うことが可能です。この場合、申請者の技能の説明や、雇用者がこの申請者を必要としている旨、どのような貢献ができるのか等をMOMに文書で説明する必要があります。
■S Pass
中級レベルの熟練労働者向けの許可書がS Passという制度です。S Passについては、最低基本月給が2,000シンガポールドル以上であること、高等専門学校と同等の学歴・技術資格の保有者であること、関連の実務経験があること等が申請資格となります。前述の雇用許可書よりも下位の許可書としての位置づけとなります。
■労働許可証
労働許可証は、月額基本給が2,000シンガポールドル以下の外国人熟練・非熟練労働者のためのR Passと、6カ月以下の外国人研修生のための労働許可証(Work Permit)の2種類があります。許可書の中では低所得者向けの許可書になります・
S Pass、労働許可証ともに労働者数を管理するために毎月の外国人雇用税、技能開発課徴金の支払いが義務付けられています。
■Personalized Employment Pass(PEP)
上記の各種許可書の保有者が離職した場合は、シンガポールから出国しなければなりませんでした。許可書保有者が離職した場合でも引き続きシンガポールで就できるよう、Personalized Employment Pass(PEP)という制度が導入されました。この制度により、許可証の保有者が離職した後も、シンガポールで引き続き滞在し(最長6カ月)、新たな就職先を探すことが可能になりました。
■外国人労働者雇用法
シンガポールは、労働力不足を補うために外国人労働者を積極的に受け入れる政策をとっています。外国人労働者雇用法は、外国人労働者を制限する趣旨ではなく、外国人労働者の福祉や、有効な就労ビザの保持など外国人労働者の保護を目的として制定された法律であります。もちろん規制もされ、就労ビザを持たない外国人労働者の就労は禁止されています。この法律に違反した雇用に対しては罰金又は禁固、もしくはその両方が課されます。