シンガポール進出支援

シンガポールの地域統括

目次

1.シンガポールにおける地域統括会社制度

シンガポールは、外国企業を国内に誘致して、経済活動の生産性を引き上げることを産業政策の重点に置いています。そのため、経済開発庁(EDB)管轄の下、地域統括会社の誘致に力を入れており、一定以上の規模の地域統括会社に対して「本部制度(Headquarters Program)」と称する優遇税制を適用しています。
本部制度は会社の事業規模や業種、地理的立地等に関係なく、すべての会社が申請することができますが、下記の事業を行うことが求められます。
・事業計画の策定
・経営管理
・営業計画及びブランド管理
・知的財産(IP)管理
・教育訓練及び人事管理
・研究開発及び試験生産・販売
・共有サービス
・経済及び投資に関する調査・分析
・技術支援
・資材調達及び流通
・財務顧問
本部制度には、地域統括会社(RHQ:Regional Headquarters)と国際統括会社(IHQ:International headquarters)の2種類あります。多国籍企業がRHQとしての適格要件を大幅に超える事業計画を持つ場合、国際統括会社として認定され、さらなる軽減税率やインセンティブなどを受けることができます。

また、シンガポールは『地域統括会社(RHQ)』、『国際統括会社制度(IHQ)』の他、貿易会社向けの『グローバル・トレーダー・プログラム(GTP)』、金融サービス企業向けの『金融・財務センター(FTC)』などの優遇措置が整備されています。

【各制度の定義・特徴】

項目

定義・特徴

地域統括会社(RHQ)

シンガポール国外にある3カ国以上の拠点へサービス提供を行う場合など、一定の要件を満たす会社を対象とする。認定された場合には、15%の軽減税率が適用される

国際統括会社制度(IHQ)

地域統括会社(RHQ)の適格要件を大幅に上回る大規模な統括会社を対象とする。国際統括会社として認定された場合、5%または10%の軽減税率が適用される

グローバル・トレーダー・プログラム(GTP)

オフショア貿易活動の拠点として、経営管理、投資・市場開拓、財務管理、物流管理の機能を有する会社が対象となる。認定されると特定商品のオフショア貿易による収益に対して、5 %または 10% の軽減税率が適用される

金融・財務センター(FTC)

シンガポール国外の関連会社に金融財務サービスを提供する会社に適用される制度。認定所得に対して免税もしくは10%の軽減税率が適用される

【シンガポールの優遇制度の税率比較】

 項目

RHQ

IHQ

GTP

FTC

低減税率

15%

10%または5%

10%または5%

10%

適用期間

3年
(3年経過後に要件を満たした場合、2年間の延長が可能)

5~10年
(最長20年まで可能)

5年
(更新あり)

10年
(更新あり)

低減税率の対象となる所得

サービス収入、ロイヤルティ、ライセンス収入、フランチャイズフィー、コミッション、マネジメントフィー

所定の製品、商品の販売益

為替・先物リスク管理、資金調達などのサービスを提供して得られた利益

2.地域統括会社(RHQ:Regional Headquarters Award)

地域統括会社とは、アジア地域の統括拠点を低税率国(シンガポールなど)に置く会社のことを指し、法人税の減税などの優遇制度を適用することが認められます。

■RHQの恩典を受けるための要件
RHQの認定を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

・シンガポールで設立又は登記された会社であること
・業界内で一定以上の実績及び規模を有する 企業グループの会社であること
・グループの指示命令系統における中枢機関であり、明確な管理統括機能を有すること
・下記表(地域地統括会社の要件)の要件を満たすこと
地域統括会社としての外形的な要件を満たす必要があります。資金面では、最低資本金と支出費用の最低額が定められています。また、サービスの提供国が3カ国以上でなければならないということに加えて、人事面では、3年以内に10名以上の専門職員を雇用し、かつ上位5名の平均年収が10万Sドル以上である必要があります。
【地域統括会社の要件】

項目

要件

資本金

・適用開始から1年以内に、払込資本金をS$20万以上有すること
・適用開始から3年以内に、払込資本金をS$50万以上有すること

事業支出

・適用開始から3年以内に、年間事業支出 (総営業費用から国外外注費、原材料、部品・梱包費を控除して算出) をS$200万以上増加させること
・適用開始から3年間の総事業支出の累計額がS$300万以上増加させること

サービス

3つ以上の会社サービスを3カ国以上の国外ネットワーク会社 (子会社、兄弟会社、支店、合弁会社、駐在員事務所を含む)に提供すること

人事

・常時、国家技術資格2級以上の資格を持った従業員を75%以上雇用
・適用開始から3年以内に、10名以上の専門職者(大学やカレッジの学位を取得している者)を雇用
・適用開始から3年以内に、上位5位の経営幹部の平均年収がS$10万以上

■RHOの優遇内容
上述にある地域統括会社の要件を全て満たした企業が、政府から「地域統括会社」の認定を受けた場合、海外適格収入(経営、サービス、ロイヤルティなど)について原則として3年間は15%の法人税率が適用されます。
また3年経過後、最低要件を満たす場合に限り、海外のマネジメントフィー、サービス料、ロイヤルティなどの適格所得について、さらに適用期間が2年間延長されます。

3. 国際統括会社(IHQ:International Headquarters Award)

■IHQの適用要件
RHQの適格要件を大幅に超える大規模統括会社は国際統括会社(IHQ:International Headquarters Award)として申請することができます。IHQの認定はEDB との協議によって決められ、企業のシンガポール経済への貢献度合いやEDBに対するアピール・交渉力が影響するとされています。
■IHQの優遇内容
IHQとして認定されると5年から10年間(最長20 年)の期間に渡り、所得の増加分(経営、サービス、販売、貿易、ロイヤルティ)に対して5%もしくは10%の軽減税率が適用されるほか、個別のインセンティブ・パッケージ(IHQ Award)が適用されます。
IHQ企業例
パナソニック株式会社 2005年、パナソニック・アジア・パシフィックが「国際統括会社」として認定されています。同グループはシンガポールに 11の子会社があるため、長期間シンガポールに投資してきたことが認められ、国際統括会社に認定されました。
現在は地理的な優位性、優秀なロジスティクス能力、先進的な情報通信インフラや優秀な人材などシンガポールの拠点としての強みを活かして、パナソニックなどの企業はシンガポールを地域統括拠点、サプライチェーン、金融、IT、人事、人材開発、エンジニアリングなど、その他本社機能をもった重要拠点として活動しています。

■グローバル・トレーダー・プログラム(GTP)

■GTPの適用要件
グローバル・トレーダー・プログラム(GTP:Global Trader Program)とは、オフショア貿易活動の拠点としてシンガポールに卸売の統括会社を置く企業へ対する優遇制度です。当該制度は、エネルギー商品及び製品、農産物及び食料品、工業製品等に係る国際貿易取引を行い、シンガポールを周辺地域の貿易センターとして活用する企業に適用されます。適用要件の詳細は以下の通りです。
【GTPの適用要件】

1

中・大規模の国際的な会社であり、適格製品の貿易、調達、流通、輸送を実施する会社

2

・オフショア貿易の地域統括拠点としてシンガポールを活用する会社(経営管理を含めた事業活動および補助機能を有する)
・ビジネスと投資計画の調整
・財務管理と財務機能
・市場開発と計画
・倉庫保管や貨物輸送サービスなどの物流サービス

3

国際的なネットワークを持ち健全性を有する会社

4

・オフショア貿易活動を主要に行うこと
・シンガポールで多額の支出を伴うこと
・シンガポールで多くの熟練者を雇用
・シンガポールの銀行、財務サービス、及びそれらの補助的なサービスを活用すること(貿易、物流、貿易機関、貿易の仲裁等)
・シンガポールで貿易専門家の人材育成、トレーニングを行うこと

5

以下の形式的要件を満たすこと
-年間売上が1億USドル以上
-国内ビジネスにおいて年間でS$300万を支出
-最低3名以上の貿易専門家を有すること(調達、セールスマーケティング、リスクマネジメントのいずれかに関与する)(シニアマネージャーを含み、現地人でも海外駐在員でも可)

■GTPの優遇内容
GTPを付与された企業は、所定の商品や製品の貿易業務から生じた利益に対して5年間にわたり 5%または 10%の軽減税率が適用されます。その後、適用要件を満たすことにより 5 年間の延長が可能になります。
■GTPの適用要件
グローバル・トレーダー・プログラム(GTP:Global Trader Program)とは、オフショア貿易活動の拠点としてシンガポールに卸売の統括会社を置く企業へ対する優遇制度です。当該制度は、エネルギー商品及び製品、農産物及び食料品、工業製品等に係る国際貿易取引を行い、シンガポールを周辺地域の貿易センターとして活用する企業に適用されます。適用要件の詳細は以下の通りです。

5. 金融・財務センター (FTC:Finance&Treasury Centers)

金融・財務センター(FTC:Finance & Treasury Centers)とは、アジア地域内の関連会社に金融・財務サービスを提供する多国籍企業に対して適用される優遇税制です。
当該制度は、シンガポール政府が世界の金融センターを目指し定めたもので、下記表(FTCの適用要件)の要件を満たす場合に、10%の軽減税率などの優遇税制が適用されます。

■FTCの適用要件

FTCは、シンガポール国外の関連会社や関係会社へ金融・財務サービスを提供する多国籍企業に適用されます。要件の詳細は以下の通りです。

・年間経費75万Sドル以上の事業を行うこと(支払利息を除く)
・専門スタッフを3人以上雇用すること
・3社以上の子会社に対して、3つ以上の金融サービス業務を提供すること
なお、上記要件はあくまでも目安とされ、金融サービスの内容については次のように規定されています。このうち、3つ以上の機能を有することが必要となります。

・シンガポールの金融機関もしくは、グループ会社の剰余金からの資金でのクレジットファシリティ(与信枠)の手配
・ファイナンスアドバイザリー
・保証・証券・予備信用状の供与や送金に関するサービス
・デリバティブ取引の手配
・シンガポール国外の関連会社の資金管理
・経済や投資に関する調査や分析
・信用情報の管理や制御
・管理業務全般
・事業計画の策定

■FTCの優遇内容
金融統括会社の要件を満たす場合、財務・資金管理・調達のサービスから生じる所得や配当に対して、最大10年間、10%の優遇税制が適用されます。
【FTCの優遇内容】

1

(1)

MAS(Monetary Authority of Singapore)に認定された子会社に対する適格サービスから得られる所得、自己の勘定で行う適格活動から得られる所得

(2)

利息、配当、株式・社債取引、金利スワップ、財務オプションから得られる所得

2

シンガポール国外への借入利息、社債利息の支払について源泉税が 最長10年間免除されます。

■シンガポールにおける地域統括会社の活用事例

■株式会社伊藤園

[事業構成の概要]

株式会社伊藤園は、2012年6月に地域統括会社として『伊藤園 アジアパシフィックホールディングス』(100%子会社)をシンガポールに設立しました。飲料水の販売やマーケティングのほか、地域統括会社を拠点として域内の消費者動向や嗜好に関する情報収集を統括し、同地域の消費者にあった製品開発を手がけていく狙いです。
また、同年10月には、販売会社として『伊藤園 シンガポール』を、販路開拓・流通・物流に強い『BP de Silva Holdings Pte.Ltd.』と共同出資(※伊藤園の出資割合は90%)で設立しました。当面は日本から輸入したものを販売しますが、近いうちにミャンマーやベトナムに工場を建設し、製造拠点として活用する予定となっています。
※ミャンマー・ベトナムに製造拠点を設けて、被統括会社とする場合は、地域統括会社による出資による方法もしくは、親会社による出資で設立したのちに、組織再編を行う必要があります

【シンガポール地域統括会社を利用した事業構成】

[軽減税率を利用した資金還流手法及びその内容・メリット]
シンガポール地域統括会社における軽減税率の適用においては、販売会社での売上に対して、いかに資金還流を行うかが重要なポイントとなります。伊藤園を例として、資金還流について解説していきます。

サービスフィー
伊藤園の地域統括会社では、商品の販売に加えマーケティング・市場調査等を行っており、これらの役務について、サービスフィーとして子会社から資金回収を行っていると考えられます。また、シンガポール地域統括会社において、法人税の軽減税率が適用されると共に、サービスフィー及び貿易所得に関する源泉税の減免措置も適用されます。
※今回の伊藤園の場合、販売も行っておりますが、地域統括割合の規制に抵触しない範囲での売上に留める事が必要となります。

ロイヤルティ
地域統括会社が子会社に対して技術移転等を行った場合、対価としてロイヤルティを受取ります。なお、シンガポール国内において受領する国外源泉所得については課税対象となるため、ロイヤルティに対して課税されます。

配当金
海外の子会社が稼得した利益を還流する方法としては、配当により行うのが一般的です。配当により資金を還流した場合には、通常、源泉地国において配当金の支払時に源泉課税されます。
受取配当金についての取り扱いは各国で異なりますが、シンガポールにおいては原則、該当事業年度において送金時に課税対象となります(詳細は3章をご参照ください)。
シンガポールにおいて課税対象となる場合、源泉税及び配当金に対する税の二重課税となるので、救済措置として受取配当金についての免税が認められています。配当金課税減免の適用要件は以下のとおりです。

[その他の地域統括会社設置のメリット]
地域統括会社には、上記にあるような軽減税率による活用が一般的ですが、シンガポールの立地や地域統括会社の機能それ自体のメリットが活用できます。伊藤園が将来的にミャンマーやベトナムを製造拠点として利用するのも、これらのメリットを十分に活かす戦略と言えます。

アジア近接地帯による物流コストの削減
「伊藤園 シンガポール」は当面の間日本から製品を輸入する方針ですが、将来的にはミャンマーやベトナムを製造拠点として活用する意図があります。シンガポールは地理的にアジアの中心に位置しているため、物流コストを低減させることが可能となります。また、為替に関するコストも低減させることが可能です。詳しくは次項で説明します。

外貨建て資金の保有による為替リスクの低減
例えば製造拠点のミャンマーから販売市場のタイへ製品を送り、販売する場合、本来であればミャンマー「チャット」と、タイ「バーツ」での取引を行うので、為替差損益が発生します。
これに対し、シンガポールでは複数の外貨建て口座を開設することが可能となります。したがって、物流は直接ミャンマー・タイ間で行い、トランザクションとしてシンガポールを間に介入させることで、取引の相殺処理による管理効率化及び為替差損益の集約によるリスク低減が可能となります。

[地域統括会社活用におけるリスク]
これまで挙げてきた軽減税率・その他のメリットを享受するに際して、注意すべきリスクが何点かあります。地域統括会社設立・運用に際して、事前にこれらのリスクを把握し、対応策を講じておく必要があります。

移転価額税制
詳細は6章の地域統括会社の税務リスクでも述べますが、物流の拠点として地域統括会社を利用し、その際の関連会社異国間取引における価額が妥当でないと判断された場合、当該税制が適用されます。具体的には、妥当でない価額で取引を行った場合における納付税額が、適正価額で取引を行った場合における納付税額よりも少ない場合、その差額分を追徴課税するといったものです。
移転価額税制の調査は年々厳しくなっており、『移転価額文書』や『国外関連取引について法人が算定した独立企業間価格に係る書類』等の事前準備は最低限必要になるものです。

タックス・ヘイブン税制
タックス・ヘイブン税制とは、海外子会社を持つ企業の租税回避を図る行為を排除する制度です。シンガポールにおいてはタックス・ヘイブン税制の規定はありませんが、日本側での規定は存在し、移転価額税制と同様に事前対応すべきリスクとなります。 
タックス・ヘイブン税制が移転価額税制と決定的に異なる点は、その適用要件にあります。移転価額税制は価額の妥当性といった不確定要素についての検証を行うのに対し、タックス・ヘイブン税制はその適用要件が明確に規定されています。したがって、移転価額税制に比べ、対策が簡易となっています。また、「タックス・ヘイブン税制の適用除外」の規定も設けられています。

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