税務・税法
目次
1.ミャンマーにおける税務の概要 | ■税目の種類 ■国税と地方税 |
2.個人所得にかかる税金 | ■個人所得税 ■申告・納付手続 |
3.法人所得税 | ■納税義務者 ■法人所得税率 ■申告・納付(所得税法17条、収益税法14条) |
4.商業税 | ■納税義務者と課税対象者となる所得の範囲 ■輸入品に係る商業税 ■非課税及び減額 ■税率 ■税額控除 ■申告・納付手続 |
1.ミャンマーにおける税務の概要
■租税の体系
ミャンマーでは、長らく1974年所得税条例(Income Tax Ordinance,1974)が税法の根拠法として適用されています。同法では、個人所得税と法人所得税ともに「所得税」として規定しており、所得税の適用範囲が個人所得税と法人所得税に明確に区分されていません。また、90年代以降の経済制度の変更や明文化されない特殊な政策等により、課税対象者の分類や定義が明確でないのが現状です。
●税目の種類
ミャンマーの国内法では、以下の様な種類の税金が定められています。
税目 | 科目 | |
---|---|---|
直接税 | 所得税類 | 所得税(Income Tax) |
利益税(Profit Tax) | ||
資産税類 | 鉱物資源税及び鉱物資源ロイヤリティー(Tax on extraction of minerals, Royalty on extraction of minerals) | |
その他 | 各種登録税、水産税、印紙税など | |
間接税 | 流通税類 | 商業税(Commercial Tax) |
物品税(Excise Duty) | ||
資産税類 | 土地利用税(Land revenue) | |
その他(水資源税、森林税) | ||
関税類 | 関税(Tariff) | |
輸入ライセンス料(License Fees on imported goods) |
※表記載項目は、すべて国税です。地方税はすべて直接税であり、固定資産税、上下水道税などがあります。
●国税と地方税
- 国税
- ミャンマーの税金はほとんどが国税であり、財政・歳入省の内務歳入局が個人並びに法人の所得税、利益税、商業税、印紙税、国営宝くじ税などを徴収しており、内務省が物品税、土地利用税などを管轄しています。その他の国税としては、運輸税、水資源税、森林税、鉱物資源税などがあります。
- 地方税
- 地方税には、ヤンゴン市開発委員会、マンダレー市開発委員会など各行政区開発委員会が管轄する固定資産税、上下水道税などがありますが、それらの歳入に占める割合は少なくなっています。
●直接税と間接税
- 直接税
- ミャンマーの税金は徴収・負担の方法により「直接税」と「間接税」に分かれており、直接税とは、税金を納める義務がある納税義務者と、税金を実際に負担する者が同じである税金をいいます。ミャンマーでは、所得税、利益税などがこれに該当します。
- 間接税
- 間接税とは、直接税と異なり、税金を納める人と実際に負担する人が異なる税金をいいます。税金の負担者が直接ではなく他の納税義務者を通じて間接的に国に税金を納付するため、間接税と呼ばれます。ミャンマーでは、商業税、関税などがこれに該当します。
2.個人所得にかかる税金
ミャンマーにおける個人所得税は、1974年に公布された「所得税法」において定められています。しかし、前述の通り1990年代以降の経済制度の変更や明文化されない特殊な政策等により、課税対象者の分類や定義が明確ではありません。
※2014年3月下旬に同年4月からの会計年度より適用する所得税法の改正法が制定されました。
また、ミャンマーの所得税法においては個人所得税と法人所得税について、明確な分類はなく、ミャンマー国市民(市民とは法人及び自然人をいいます。以下同じ)に対して所得税を課すると明記されています。そのため、個人所得税に該当する規定か、また法人所得税に該当する規定かは判断が必要となるため注意が必要となります。
個人所得税を計算する場合、まずその対象となる人が「居住者」であるか「非居住者」であるか、つまりその対象者の居住性が非常に重要となります。この居住性により、所得税が課税される収入の範囲が異なってきます。それぞれの定義については、以下の通りとなります。
課税年度
課税年度は、4月1日から翌年3月31日までとなります。個人所得税はこの課税年度に従って計算されます。
ミャンマーにおける所得税額の計算
ミャンマーにおける所得税計算については、次の手順により計算します。
- [所得金額の計算]
- 所得金額については、以下に掲げる所得区分ごとに、収入金額から控除可能な経費額等を控除して計算します(8条)。
給与所得(9条)
給与所得については、給与、報酬、賞与等の額、及び給与外の手当等が含まれます(9条(a))。これらの額を合計して、給与所得の金額を計算します。
専門的職業所得(10条)
専門的職業とは、医師看護婦、弁護士、技師、建築家、映像制作、演劇、作家、画家、彫刻家、会計士、監査役、占い師、教師等であり、専門的職業としての役務提供により発生した収入から、その収入を得るために要した費用の額を控除して専門的職業所得を計算します(10条(3)例1)。ただし、個人的な支出などについては収入額から控除することができません。
事業所得(11条)
営む事業による収入及び利益を目的とした投資による収入等の合計額から、それらの収入にかかる経費額等を控除して、事業所得の金額を計算します(11条(a))。ただし、事業者が支出した個人的な費用などは収入額から控除することができません(11条(a)(2))。
資産賃貸所得(12条)
土地及び建物の賃貸による収入額から、その収入にかかる支出及び地方自治体から課される賃貸料等を控除して資産賃貸所得の額を計算します。ただし、資本的支出や個人的な支出、使途が不明瞭な支出などについては収入額から控除することができません。
資産売却所得(キャピタルゲイン)
資産の譲渡や交換による収入額を合計し、そこから譲渡経費を控除して資産売却所得を計算します(12条(a))(14条)。この場合、資産の売却価額については、所得税法施行規則(Income-Tax Rules)に従って計算しなければいけません。
雑所得
不動産又は動産(金銭を含む)から生じた収入のうち、その発生源泉を正確に把握する事が困難なものは雑所得とされます(14条)。
その他の所得(14条(A))
上記のいずれにも該当しない収入額がその他の所得となります。所得金額の計算にあたっては、その収入額を得るために支出した費用を控除しますが、個人的な支出や使途が不明瞭な支出などについては収入額から控除することはできません(14条(A))。
非課税所得(5条)
所得金額のうち、以下に該当するものは「非課税所得」として、所得税が課税されません。
・宗教・慈善的機関から受け取った所得
・宗教・慈善の目的のみに使用される所得
・地方自治体の所得
・所得税法施行規則により定められた特定の預金に関連した受取額
・年金
・死亡又は障害に対しての補償額
・保険金
・資産売却所得、企業からの所得を除く、事業以外からの所得
・配当金
・予算執行法により定められた基本手当
・予算執行法に定められた妻子に関する手当
・配偶者が受取人となる生命保険割増額
・規則に定められた準備金に対する出資 - [税率]
- 上記で算定した、課税所得に対して以下の税率を乗じて、個人所得税額を算出します。所得税法に規定されている個人に対する税率は、納税者の国籍や居住性、収入内容や通貨によって細かく規定されており、以下の表の通りとなります。ただし、委託加工に関する収入や、有価証券譲渡益については、異なる課税方法が採用されております。
居住者に対する所得税率
給与所得と事業所得では別々の税率が適用されます。個人の給与所得に対して1~25%の累進課税制度により税額を計算します。また、個人の事業収入および報酬に対しては2~30%の累進課税制度により税額を計算します。 各課税所得に対する税率は、以下のとおりとなっています。 ※2014年3月下旬に同年4月からの会計年度より適用する所得税法の改正法が制定されました【新税率における税額速算表】 課税所得(Kyat) 税率 控除額 1~2,000,000 0% 0 2,000,001~5,000,000 5% 100,000 5,000,001~10,000,000 10% 350,000 10,000,001~20,000,000 15% 850,000 20,000,001~30,000,000 20% 1,850,000 30,000,001~ 25% 3,350,000 【所得税率変更点】 課税所得(Kyat) 変更前 変更後 1~500,000 1% 0% 500,001~1,000,000 2% 0% 1,000,001~1,500,000 3% 0% 1,500,001~2,000,000 4% 0% 2,000,001~3,000,000 5% 5% 3,000,001~4,000,000 6% 5% 4,000,001~5,000,000 7% 5% 5,000,001~6,000,000 7% 10% 6,000,001~8,000,000 9% 10% 8,000,001~10,000,000 11% 10% 10,000,001~15,000,000 13% 15% 15,000,001~20,000,000 15% 15% 20,000,001~30,000,000 20% 20% 30,000,001~ 20% 20% 【その他ミャンマー所得税に関する変更点】 内容 変更前 変更後 基礎控除 総収入の20% ※Ks.10,000,000を上限 同左 配偶者控除 Ks.300,000 Ks.500,000 子女控除(一人当たり) Ks.200,000 Ks.300,000 生命保険料控除 支払額 同左 寄付金控除 政府等への一定の寄付金のみ 同左 免税規定 年間収入がKs.1,440,000以下 なし 【事業収入・報酬に対する所得税率】 課税所得(Kyat) 税率 1~500,000 2% 500,001~1,000,000 4% 1,000,001~2,000,000 6% 2,000,001~3,000,000 8% 3,000,001~4,000,000 10% 4,000,001~6,000,000 12% 6,000,001~8,000,000 14% 8,000,001~10,000,000 16% 10,000,001~15,000,000 18% 15,000,001~20,000,000 20% 20,000,001~30,000,000 25% 30,000,001~ 30%
以下に該当する外国人または非居住者の一定の所得については、以下の税率を用います。
【外国人または非居住者の所得に対する税率】 所得の種類 税率 非居住国民(non-resident citizen)が国外で得た給与以外の所得 10% 非居住外国人で特別許可(Non Resident foreigner)を得て国家事業に従事している者 20% 非居住外国人の所得 35% - ●申告・納付手続
- 課税年度中に課税所得を有するすべての者は、課税年度終了後3カ月以内に所得税の申告書を提出しなければなりません。ただし、給与項目のみの所得を有する者については、雇用者側で年次給与計算書を、その課税年度終了後3カ月以内に提出します。
※申告書に誤りがあった場合には、課税が行われるまでに再度申告書を提出することができます。
※事業を休眠する場合には、事業中断後1カ月以内に申告書を提出しなければなりません。
納税については、所得税の申告後(6月30日申告期限)に発行される課税通知書(The Notice of Assessment)に記載された日が納付期限となりますが、法人の場合には延納も認められています。なお、納付が遅れた場合には、10%の追徴税額を支払わなければなりませんので、注意が必要です。
3.法人税
納税義務者
ミャンマーにおける法人所得税は、1974年に公布された「所得税法」において定められています。そして、前述しました通り、ミャンマーの所得税法においては個人所得税と法人所得税について、明確な分類はないため、一つ一つの規定が個人に該当するのか、法人に該当するのか、あるいは両方に該当するのかの判断が必要となるため注意が必要です。
法人所得税を計算する場合にも、個人所得税の場合と同様に、まずその対象となる法人の居住性を判断する必要があります。この居住性により、法人所得税が課税される収入の範囲が大きく異なってきます
- ●課税対象となる所得の範囲(9条)
- ミャンマーでは、個人と法人の所得税が所得税法という1つの法律によって規定されています。したがって、居住性の違いによる課税所得の範囲については、個人所得税の場合と同様となります。即ち、居住者はミャンマー国内源泉所得のみならず国外源泉所得も含めた全世界所得がミャンマー国内での課税対象となります。
一方、非居住者は、ミャンマー国内源泉所得のみが課税対象となります。
■法人所得税率
法人に対する所得税については、以下の区分に応じて、それぞれに定められた税率を適用して税額が計算されます。2012年3月に発行されたNotification No.111/2012により、税率が変更されているため、注意が必要です。
会社に対する税率は、従前の30%から25%に引き下げられたほか、支店の税率も35%のフラットレートと5~40%の累進税率のいずれか高い方とされていましたが、原則として35%のフラットレートに統一されました(ただし、外国投資法に基づく投資許可を得た支店は25%のフラットレートが適用されます)。
法人形態 | 法人税率 | 通知 |
---|---|---|
ミャンマー企業 | 25% | Notification No. 111 |
ミャンマー投資委員会から投資許可を得ている企業 | ||
特定の国家事業に従事している非居住外国企業 | ||
外国企業の支店 | 35% | |
外国企業の支店で、ミャンマー投資委員会から投資許可を得ている場合 | 25% | |
協同組合 | 2~30%の累進税率 | Notification No.109 |
※非公開収益(undisclosed income)…納税者が情報源や収益の性質を公表できない場合には、30%のフラットレートで課税される。
■申告・納付(所得税法17条、収益税法14条)
年次税務申告書は,課税年度の終了日から3カ月以内に提出する必要があります。確定申告をした後に修正が必要な場合には、税額が確定する前に修正申告書を提出できます。また、税金の納付については、当該課税年度の総所得を見積もり、その金額をもとに月次又は四半期ごとに前納を行わなければなりません。
仮に、納付額が不足している場合には、残りの期間の納付額で調整を行います。適切な前納を行わない納税者は滞納者とみなされ、不足額の10%を上限とするペナルティーが科されます。
4.商業税
商業税は1976年に立法された政府セクターのみに適用が限定されていた商品とサービスに関する税法に伴い、1990年に施行されることになりました。1976年以前、ミャンマーの間接税を主に占めていたのは商業税であり、以下4つの法令下に基づいて徴収されていました。
・1949年 消費税法令
・1947年 ホテル及びレストラン法令
・1947年 娯楽税法令
・1956年 事業設備法令
現在の商業税法による商業税とは、国産品に限らず輸入品や法令に定められているサービスを対象に課税されています。
※ 2014年3月下旬に同年4月からの会計年度より適用する商業税法の改正法が制定されました。
■納税義務者と課税対象者となる所得の範囲
ミャンマーで事業活動を行う場合には、商業税の納付が義務付けられています。商業税は、商品の販売やサービスの提供に対して課税される付加価値税であり、輸出入に係る取引についても課税されます。これまで全ての輸出売上及び国内外貨売上に対して8%の商業税が賦課されてきましたが、「国内外貨売上」については2010年1月に廃止され、外貨売上に1,000チャットを乗じてチャットに換算し、商品ごとにチャットで課税されるようになっています。
商業税は付加価値税なので、商品の仕入時に支払った商業税額は、売上時に課税される商業税額から控除することができるはずですが、現状では実務上難しくなっています。
商業税は、以下の者に対し、納税義務が課せられています。
・輸入業者(個人)
・製造業者(個人)
・一定種のサービス提供者(貿易、輸送、ホテルやレストランなどを行う個人)
・法人企業
・事業団体・合弁会社
納税義務者は、郡税務署に商業税納税者登録を行わなければならず、登録申請は事業開始の1カ月前に行わなければなりません。
税率
2014年の改正で、商品の製造販売、輸入、売買、サービスの提供に対して商業税を原則として課すことになりました。 その上で、非課税品目を表に記載するかたちをとられています。 連邦法税法第11条に、税率は原則として、5%と定められています。 その他、例外として、以下の通り定められています。
・国内製造品の販売:例外として、16品目(たばこ、酒類、ヒスイなど)については8~100%の課税、60品目(米、小麦粉、豆など)については非課税
・ 商品の輸入:例外として、16品目(たばこ、酒類、ヒスイなど)については8~100%の課税
・サービスの提供:例外として、26品目(生命保険サービス、保育サービスなど)については非課税
・ 輸出:例外として、5品目(天然ガス、チーク丸太など)については、5~50%の課税
■申告・納付手続
ミャンマーで商業活動を行うすべての事業者は、営業開始の1カ月前までに所轄の税務署に登録申請を行う必要があり、営業開始の10日前までに、開始日を所轄の税務署に報告する必要があります。
商業税の申告及び納付は、月ごとに翌月10日までに行う必要があります。また、決算日(3月末)から3カ月以内に年次の確定申告を行います。