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M&A に関する法律・規制 |中国進出コンサルティング

中国におけるM&A に関する法律・規制

中国においてM&Aを行う場合、複数の法規が関連するため、各法律を横断的に理解しておく必要があります。関連する法規は以下のとおりです。このうち主要な法規を本節で解説します。

投資規制

原則として、中国への 外国直接投資は自由とされていますが、外商投資方向の指導規定により、一定の業種については出資比 率の上限、資本金最低限度額などが規定されています。
そのためM&Aによる投資を行った結果、出資比 率が外資規制を超えるような取引は認められません。さらに、2012年1月30日に施行された外商投資産業指導目録では、各産業の事業ごとに、制限産業・禁止産業を詳細に定めて、外国企業の参入に一定の制限を設けています。
したがって、対象業種が外資規制に該当するかどうかを確認することが、中国におけるM&Aの第一歩となります。
外商投資産業指導目録は、1989年に外商投資の奨励・制限・禁止目録という名称で初めて公表されました。当初は、外商投資導入の産業別政策として業種と製品品目ごとに優先度で区分されていました。

新目録を2007年度版と比較すると、奨励類は351項目から354項目に、制限類は87項目から80項目に、禁止類は40項目から39項目に変更されています(P.142~P.145参照)。なお、奨励類・制限類・禁止類のいずれにも該当しないものを許可類と呼びます。このような奨励類の増加、制限類と禁止類の減少は、産業の対外開放の促進のために行われたものといわれています。

■ 規制業種・禁止業種

[禁止類 ]
禁止類に該当するプロジェクトに投資をすることは禁止されます。
  • 国家の安全に危害を及ぼす、または社会・公共の利益を損なうもの
  • 環境を汚染し、自然環境を破壊し、または人体の健康を害するもの
  • 耕地を大量に占有し、土地資源の保護・開発に不利、または軍事施設の安全と機能を害するもの
  • 国の特有の製造プロセスまたは技術により生産する製品
  • 国の法律・行政法規の規定で禁止されるその他のプロジェクト

なお先物取引会社の設立など旧目録で禁止類に属していたものの一部が、新目録では制限類、許可類になりました。 具体的には、別荘の建設および経営が制限類から禁止類に変更、書簡の国内郵送業務が禁止類へ追加されました。一方、書籍・新聞・定期刊行物・オーディオ製品・電子出版物の輸入業部が禁止類から削除されました。

[制限類]
制限類に該当するプロジェクトに投資をする場合は、外資100%は認められず、投資に制限がかかります。ただし、中国側投資者の外商投資プロジェクトにおける出資比 率の合計が51%以上であれば、中外合弁企業等の形態で当該制限業種に投資することができます。
  • 技術レベルの立ち遅れているもの
  • 資源の節約および生態環境の改善に不利なもの
  • 国が規定する保護採掘をするもので特定鉱産物の探査、採掘に従事するもの
  • 国が段階的に開放する産業に属するもの
  • 法律、行政法規で規定するその他の状況

製造業については、2007年の段階で、化学原料や化学薬品製造業、非鉄金属関連等で品目の拡大が見られます。一方、サービス業は、WTO加盟による市場開放がサービス分野へ浸透したことを反映し、(通信やネット販売などを除く)卸・小売業や、商品リース、貨物運輸代理等が制限類から外れました。
2011年外商投資産業指導目録の改定で製造業の外資参入が緩和され、天然食品添加物・食品添加物の生産、新エネルギー発電プラントもしくは主要設備の製造については合弁・合作に限定という制限がなくなりました。水利・環境および公共施設管理業や衛生・社会保障および福祉業に関しては、制限がなくなりました。

■土地所有に関する規制
中国では、土地の概念を所有権と使用権の2つに区別しています。中国に進出する際には、土地の制度についてしっかりと認識することが重要です。
中華人民共和国憲法1章10条で、土地の所有権は全人民所有と集団所有のいずれかとされています。全人民所有権とは、国家の所有を意味します。後者の集団所有権とは、農民集団の所有を意味します。基本的に都市の土地は国が所有し、社会主義を色濃く反映していることがうかがえます。
また、土地の使用権限には、国有土地使用権と集団土地使用権の2つがあります。さらに、国有土地使用権は、割当土地使用権と払下土地使用権の2つに分類されます。

払下土地使用権取得のためには、2007年から入札・競売・公示方式を採用しています。以前は協議、入札、競売の3つの方法がありましたが、農地保護、無計画な投資や低水準の重複建設を防止するために変更されました。土地使用権を取得すれば賃貸・担保設定・譲渡も可能になります。ただし土地使用年数の上限は、用途別に次のように定められています。

中国の土地の使用は、厳格な管理がなされています。土地の用途を農業用地、建設用地、未利用地に分け、決められた土地の利用以外で使用する場合には用途転換手続をとらなければいけません。しかし、用途ごとに土地の総量が厳密に定められているため、安易に用途変更することができません。

また、2年以上の遊休土地については、従来から「遊休土地処理規則」(国土資源部令第5号)に「土地取得後1年以上を経ても建設工事を始められない場合、土地代金の20%以下に相当する土地遊休費を支払わなければならず、2年連続して土地を利用しない場合、政府は土地を無償で回収する」等の規定がされています。土地管理の強化により、国家から権限を委ねられた地方政府から回収を求められた実例もあります。
さらに2004年8月に改正された「土地管理法」(主席令第28号)等に「公共の利益や都市計画等に基づく国による収用」を認める規定がありますが、創業後に収用・移転を余儀なくされたケースがあるなど、近年、規定の運用が厳格化されつつある点に留意が必要です。

日本企業が中国の土地を使用する場合は、国家から土地の使用権限を与えられているにすぎないことを忘れてはなりません。日本では土地の私有が認められていますが、中国では全人民所有権と集団所有権の2つの所有権しか認められていません。制度を理解せずに日本企業の立退き騒動が勃発したことも多々あります。

新会社法

中国会社法は、中国内の内資企業に適用されるだけでなく、外商投資企業(いわゆる外国企業)にも適用されます。さらに外商投資企業には、中外合弁企業法、中外合作企業法、外商投資企業法等の特別法も適用されます。
M&Aの手法として一般的に広く利用されている株式譲渡、新株発行等に関する基本的事項は、中国新会社法に規定されています。
ただし、改正されたとはいえ、明文の規定があまりにも少ないため、実務の規定や動向には注意を払う必要があります。具体的な実務上の対応については、弁護士などの専門家による適切なアドバイスが必要です。

■株式・持分譲渡
新株を発行する場合、 株主総会決議が必要です(会 社法134条)。 新株の公開発行を行う場合は、新株目論見書、財務諸表の公告、かつ株式引受書の作成が必要です(135条)。 また適切に払込ませるため、設立時と同様、銀行と株式払込金取扱契約を締結する必要があります(88条)。契約した銀行は払込証明書を交付する義務が生じます(89条)。
日本と同様中国でも、新 株発行の対価について現物出資が認められています(27条)。具体的に出資が認められる資産としては、知的財産や土地使用権等の通貨により評価可能な資産で、かつ法に従い譲渡可能な非通貨財産ということになります。

[新株引受権]

中国会社法には明文規定がないため詳細は不明ですが、実務上は行われている場合があります。

■合併
中国会社法は、日本と同様に 吸収合併、新設合併の両方を認めています(173条)。吸収合併とは、1つの会社がその他の会社を吸収することをいい、新設合併とは2つ以上の会社が合併して1つの新会社を設立することをいいます。中国では吸収合併が一般的です。
合併の効果も日本と同様であり、被合併会社は消滅し、被合併会社の資産や負債等すべての権利義務は、個別の移転契約なしに包括的承継として存続会社へ引き継がれます。ただし、債権者保護手続が必要となります。
合併を行う会社は、合併当事者の資産評価を行い、取締役会決議において合併計画を承認します。 合併計画には、合併条件や合併方法、定款の変更などを定めます。しかし合併の対価については明文の定めがないため、合併交付金(金銭)や転換社債型新株予約権付き社債、存続会社の親会社の株 式(三角 合併)等を対価とすることも考えられます。
その後、株主総会において、出席した 株主の議決権の3分の2以上の賛成による決議を行います(104条)。その際、当該株主総会の決議において合併に反対する株主には、自己の保有する株式の買い取り請求権の行使が認められます。
また当該株主総会での定足数については明確に規定されていません。定足数を設けたい場合には、いわゆる任意的記載事項として定款に記載する必要があります。
合併の各当事者は合併協議書を締結し、貸借対照表と財産明細書を作成します。また、企業合併は債権者にとって特に重要な事項のため、債権者保護手続をしなければなりません。債権者保護手続は、合併決議を行った日から10日以内に債権者に通知し、かつ30日以内に新聞上で公告する必要があります(174条)。
ただし、日本とは異なり「知れている債権者」(789条)についての例外規定は定められていません。法に従わず、通知または公告を行わない場合、1万元以上10万元以下の過料に処される可能性がありますので注意が必要です。
一般的な合併の手順は、以下のとおりです。

■分割
企業分割とは、事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割により、他の会社(分割承継会社)に包括的に承継させる組織法上の行為をいいます。分割承継会社が分割により新しく設立される場合を新設分割といい、既存の会社が分割承継会社となる場合を 吸収分割といいます。
会社を分割する場合は、貸借対照表と財産明細書を作成する必要があります。また 企業 合併と同様に、債権者保護手続を行います(会 社法176条)。会社が分割する前の債務については、分割後の会社が連帯責任を負います。ただし、事前に書面によって別途合意した場合はその限りではありません(177条)。 株主総会の決議において反対した 株主は、会社に適正な価格でその持分を買い取るように請求することができます(75条2号)。
なお、 企業分割の一般的な手順は、解散申請が不要であることを除けば、 合併の手順(P.151参照)とほぼ同じです。

■資産譲渡
資産譲渡の対象となる資産には、棚卸資産、機械・土地等の有形資産、のれん、ノウハウ等の無形資産が含まれると考えられます。しかし、中国の 資産譲渡は、日本と異なり会社法に規定がありません。実務上では 事業譲渡といいますが、中国会社法上では資産、負債等を個別譲渡するという各個別取引の集合体となっています。実務上の運用面では、許認可制となっている合併、分割を利用せず、手続が簡易な事業譲渡を利用した組織再編が多く見受けられます。ただし、上場企業が1年以内に重大な資産の購入や売却を行う場合は、会社にとって重要な事項であることから、速やかに株主総会を招集し、出席した 株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となります(会 社法105条、122条)。 株主総会の決議において、反対した株主は、会社に適正な価格でその持分を買い取るように請求することができます(75条2号)。

証券法

中国証券法は、2005年に改正され2006年1月1日に施行されました。当該法律は公開会社に対して適用され、広く存在する利害関係者の平等な権利を保護するための法律です(証券法1条、2条、10条)。
公開会社のM&Aについては、公開買付規制、開 示規制、インサイダー取引規制などが関連してきます。

■ 公開買付規制
公開買付とは、ある会社の株 式を買付価格、買付期間などを公告したうえで、不特定多数の 株主から株 式を買い集める制度をいい、上場企業の 買収には日本でもよく利用されています。これを義務付けることにより、一部の 株主に好条件で取引され、他の 株主との公正性を害しないことを制度の趣旨としています。

[公開買付が義務付けられる場合]

公開会社の株 式を取得する場合には、同法に定められている公開買い付けの規制に従わなければなりません。以下のいずれかの要件を満たす場合、原則として公開買付が義務付けられています。

  • 証券取引所での証券取引を通して投資者が保有する、または協議、その他の取決めにより他人と共同で保有する1つの上場企業の発行済株式が30%に達した場合で、買付を継続するとき(証券法88条)
  • 協議買収方式を採用する場合、 買収者が 買収する、または協議、その他の取決めにより他人と共同で 買収する1つの上場企業の発行済株式が30%に達した場合において、 買収を継続するとき(96条)
[公開買付価格]

公開買付を行う場合、自由な価格で取引が可能になると、さまざまな問題が生じるため、証券法では、以下のような規定を設けています。

  • 買付価格はすべての株主に対して均一でなければならない(証券法89条、91条)。
  • 買収者は、買付期限内における 買収対象企業の株 式の売却を禁止される。また、申込に規定する以外の形式または申込条件を超える条件での 買収対象企業の株式の買付も禁止される(93条)。
  • 買収後、買収対象企業の株主構成が上場条件に合致しなくなった場合、買収対象企業の株 式を保有する 株主は、買収者に対し買付申込と同等の条件にて当該株式を売却する権利を有し、買収者はこれを買付けなければならない。すなわち、当該規定は 買収者に買受義務を負わせることで、株主に株式譲渡の機会を与え、さらに、買付価格を買付申込と同等と規定することで 株主の経済的利益も保護し、もって買収により株主に不測の損害を与えないようにする(97条)。
[公開買付の撤回]

公開買付が一度開始された後に、公開買付の撤回が行われると、相場操縦に利用され、株主や株式市場に多大な影響を与える可能性があるため、日本では、自由に撤回をすることはできません。 中国においても、公開買付の買付申込承諾期間内においては原則として公開買付の撤回は認められません。ただし、買付申込を変更する必要がある場合には、必ず事前に国務院証券監督管理機構および証券取引所に報告し、認可を経た後、公告する必要があります(証 券法91条)。

  • 買付価格はすべての株主に対して均一でなければならない(証券法89条、91条)。
  • 買収者は、買付期限内における 買収対象企業の株 式の売却を禁止される。また、申込に規定する以外の形式または申込条件を超える条件での 買収対象企業の株式の買付も禁止される(93条)。
  • 買収後、買収対象企業の株主構成が上場条件に合致しなくなった場合、買収対象企業の株 式を保有する 株主は、買収者に対し買付申込と同等の条件にて当該株式を売却する権利を有し、買収者はこれを買付けなければならない。すなわち、当該規定は 買収者に買受義務を負わせることで、株主に株式譲渡の機会を与え、さらに、買付価格を買付申込と同等と規定することで 株主の経済的利益も保護し、もって買収により株主に不測の損害を与えないようにする(97条)。

■開示規制

[大量保有報告規制 ]

大量保有報告規制とは、市場の透明性と公正性を保つことで、投資者保護を図るための規制です。特定の人が株式を大量保有すると、大量保有者は会社の支配関係や株式の市場価格に大きな影響を与え、意図的な株価の乱高下が可能になってしまいます。その結果、一般投資家が想定外の損害を被ることがあります。このようなことがないようにするために当該規制が導入されました。
規制の対象は、株式取得により対象企業の株式の5%以上を保有する場合です(証 券法86条前段)。保有した日より3日以内に国務院証券監督管理機構、証券取引所に書面で報告し、当該上場企業に通知し、さらに公告を行う必要があります。報告内容は、下記の3つです(87条)。

  • 株式保有者の名称および住所
  • 保有する株式の名称および数
  • 持株が法定の割合に達した、または持株の増減が法定の割合に達した日時

他方、証券取引所を通さない協議買収によって5%以上の株式を保有した場合、証券法上、大量保有報告規制に係る規定は明記されていないため、対象にはなりません。協議買収は非流通株の相対取引を想定して規定されたもので、この取引では市場の一般投資家が想定外の損害を被る可能性は少ないと考えられます。

[適時開示]

臨時報告書
上場企業の株式取引価格に比較的大きな影響を生じさせる可能性がある重要な事実が発生し、投資者が未だこれを知らない場合には、企業は臨時報告書を国務院証券監督管理機構および証券取引所に提出し、公告する必要があります(証券法67条)。「重要な事実」とは、次の12の事象です。

  • 会社の経営方針および経営範囲の著しい変化 ・ 会社の重大な投資行為および重大な財産購入の決定
  • 会社が重要な契約を締結し、会社の資産、負債、権益ならびに経営成果に重大な影響を生じさせる可能性がある場合
  • 会社に重大な債務または未弁済かつ期限到来済の重大債務に関し違約状況が発生した場合
  • 会社に重大な損失が発生しまたは重大な損害を被った場合
  • 会社の生産経営の外的条件に重大な変化が生じた場合
  • 会社の董事、3分の1以上の監事またはマネージャー(中国語でいう「経理」)に変動が生じた場合
  • 会社の5%以上の株式を保有する株主または実質支配者の株式保有状況または会社支配の状況に比較的大きな変動が生じた場合
  • 会社の減資、合併、分立、解散および破産申請が決定した場合
  • 会社にかかわる重大な訴訟により、株主総会または董事会決議が法により抹消され、または無効を宣言された場合
  • 会社に犯罪の疑いがあり司法機関から立件調査されている場合、または会社の董事、監事、高級管理職に犯罪の疑いがあり司法機関から強制措置を受けている場合
  • 国務院証券監督管理機構が規定するその他の事項

大量変動報告書
証券法86条2項では 大量保有報告規制(P.155参照)と同様の規定があります。この規定の趣旨も、投資者保護にあります。
大量保有報告規制の規定(証券法86条2項)は5%以上の株式を取得した時点での報告・公告を要求する規定であり、その後の報告・公告を強制するものではありません。しかし、5%以上の株式取得後も大量保有者は企業の支配関係や、株式の市場価格に大きな影響を与えることを通じて、依然一般投資家に想定外の損害を与える可能性があります。そのため、保有する上場企業の発行済株 式が5%に達した後においても、その保有する上場企業の発行済株式の割合が5%増加または5%減少するごとに、大量保有報告規制と同様の報告および公告を行う必要があります。
さらに、報告期限内および報告、公告を行った後2日以内は、市場価格の変動が大きいと想定されるため、新たに当該上場企業の株 式売買を行うことを禁止しています。

[継続開示]

上場企業は、各会計年度の第1四半期と第3四半期終了後30日以内に四半期報告書を、上半期の終了日より2カ月以内に半期報告書を、各会計年度の終了日より4カ月以内に年度報告書を、それぞれ国務院証券監督管理機構および証券取引所に送付し、かつこれを公告することが要求されています(証券法65条、66条、四半期報告と株 式に関する特別規定4項)。
年度報告、半期報告の記載内容は証券法65条、66条で列挙されており、半期報告書の記載内容は年度のものより簡易になっています。年度報告書には注冊会計師事務所による会計監査が必要となります。
これらの情報により、投資家は定期的に適切な情報を入手することができ、適切な経済的意思決定が可能となります。また、企業にとっても効率的な資金調達を可能にします。
上場企業は、自社の情報開示に関する管理規則を制定して、これを董事会において審議した上で、会社登記地の証監局および証券取引所に届出をする必要があります。

■インサイダー取引規制
インサイダー取引とは、インサイダー(証 券法74条)がインサイダー情報(75条)を用い、自己または第三者の利益を図る行為を指します。この取引が行われると、株式取引の不公正や、株主の不平等、ひいては証券市場に対する不信感をもたらし、経済の基盤である資本市場の前提を崩す結果となるため、証券法ではイ ンサイダー取引を禁止しています(73条)。
しかし、現状の中国においてはイ ンサイダー取引に係る詳細な規定は存在しません。2012年に中国証券監督管理委員会(証監会)が、インサイダー情報の取締りを強化すると発表したため、今後明確になると思われます。厳しい法的監視体制におかれ、国際社会との調整が図られると予想されます。

独占禁止法

中国では中華人民共和国独占禁止法(以下、独禁法)が施行されています。 この独禁法の規制対象は、独占的合意、市場支配的地位の濫用、企業結合、行政権限濫用による競争力排除および制限の4種類に分けられます。特にM&Aにおいては、事業者集中といわれる企業結合規定について、中国国内に子会社を持っていなくても申告が求められる場合もあるため注意が必要です。また、曖昧な規定も多いので、事前に国務院独占禁止法執行機関と協議する必要があります。

■独占的合意
独占的合意は、以下の2つの場合に禁じられています。

独占的合意禁止の適用除外については、以下のように規定されています。

  • 技術改良や新製品研究開発
  • 品質向上、原価低減、効率化、製品規格基準の統一や専業化による分業
  • 中小企業の経営効率を高め、競争力を高める
  • エネルギー節約、環境保護、災害救助等の公共の利益の実現化
  • 経済不景気のため、売却数の著しい低下、生産過剰の緩和・ 対外貿易や経済協力の正当な利益補償

■市場支配的地位の濫用
独禁法には、市場支配的地位の事業者による濫用行為を禁止する規定があります。特に、支配的地位の判断基準が重要です。

■企業結合
独禁法は、企業結合取引(合併、持分または資産の取得による支配権の取得、契約等による支配権取得または他の事業者に決定的な影響を与える取引)が申告基準を満たした場合、事前に国務院独占禁止法執行機関に申告する必要が生じているにもかかわらず申告していない場合は企業結合できないと定めています。
また、国外の独占的行為が、国内市場に排除的影響を与える際は、独禁法が適用されます。

[申告基準]
  • 企業結合する全事業者の前会計年度の全世界売上合計高が100億元を超え、かつ、少なくとも当該2つの事業者の前会計年度の国内売上高が、すべて4億元を超える場合
  • 企業結合する全事業者の前会計年度の国内売上合計高が20億元を超え、かつ少なくとも当該2つの事業者の前会計年度の国内売上高が、すべて4億元を超える場合

国内売上高の「国内」とは、事業がサービスする商品または買主所在地が中国の国内にあることを指します。そのため企業結合する事業者が、中国に子会社等を持っていなくても申告が必要な場合があります。しかし申告基準を満たしても、グループ内の企業再編は申告対象外です。これは外部に対する影響力が低いためであり、適用除外となります。

[申告手続]

審査の開始から決定までに、事業者から申告書類を受領した日から最長で180日を要します。企業結合を計画する際は 審査期間について留意する必要があります。申告が必要な事業者は、まず申告書類等を国務院独占禁止法執行機関に提出します。当該事業者から書類を受領した日から30日以内(一定の場合、90日以内)に初回審査し、二次審査をするかどうかについて、書面で通知があります。当該事業者は、決定前の企業結合は実施できません。しかし、二次 審査をしないと決定されるか、または期限に到来しても通知がない場合は、企業結合を実施することができます。
二次審査の場合、決定日から90日以内に二次 審査が終わり、当該企業結合を中止させるかどうかの結果と理由が書面で報告されます。実務上、多くは再延長なしで二次 審査が終了します。なお、承認を得た事業者の企業結合に対し、国内競争に与えるマイナス影響を減少させるような制限的条件を付加する場合もあります。しかし、無条件で承認される場合が圧倒的に多いのが現状です。

■行政権限濫用による競争力排除および制限
行政権限濫用による競争の排除・制限は、日本やアメリカの独禁法には存在しない規制のため、中国の特徴的な規定といえます。事業者の行政機関等による強制や指定、授権等を理由に、独占行為をしてはならないと定めています。当該行為をした場合は、調査処理規定に基づいて処理されるため、行政機関等に強制されたとしても免責されない可能性があり、注意が必要です。
独禁法に違反した場合、以下の罰則が科されます。

また、独占的行為を行った結果、他人に不利益を被らせた場合、民事責任を負うことになります。

■企業評価制度
中国では、企業価値評価指導意見(試行)や固有資産評価管理規則等によって企業評価手続が定められています。中国の企業評価制度の最も重要な趣旨は、中国国有資産の不当な低価格評価による海外流出を防ぐことなので、実際は、中国側に有利な企業評価が行われる場合がある点に注意する必要があります。また、中国における企業評価プロセスは、しばしば日本側にとって不透明な場合があります。
中国で主に使用される企業評価方法は以下のとおりです。

評価プロセスについては、中国側に一方的に任せるのではなく、評価者の任命、企業評価方法の決定、企業価値決定の方法、会社の調査権や評価ドラフト書面の査閲権の明確化などについて日本側も意見し、決定することが重要です。
たとえば、企業価値決定の方法について、中国では2つの方法があります。1つは、企業価値のレンジを決めず、法定評価結果に委ねる方法。もう1つは、あらかじめ企業価値のレンジを決めておき、法定評価結果を参考にして、企業価値を決定する方法です。中国の法規上は前者が原則とされていますが、実務上後者を採用することも可能ですから、どちらがお互いに納得のいく方法なのかを議論した上で、選択する必要があります。
政府からの認可においては、たとえ日中両社がお互いに合意している価格であっても、その合意価格が法定評価価格よりも10%以上乖離している場合には、認可されないことがあります。特に中国側に不利な場合は、認可されない リスクが高いです。
法定評価価格を計算する評価者は、あくまで客観的な評価を行うため、日本および中国側が個別に同意した事項について柔軟な対応を望むことは難しいです。ただし、比較的小規模な評価事務所や個人事務所では、当事者間で企業価格のレンジがあらかじめ定められている場合は、柔軟な対応をしてくれるところがあります。また、一般的に、評価者が一度決定した評価内容について、大幅に修正することは評価者の面子にかかわるため困難です。

会計基準

M&Aを行う場合には、一般的に対象企業のデュー・デリジェンスを行い、企業価値の算定を行います。また中国に限らず他国でM&Aを行う際は、会計基準が各国で異なる場合が多いので、把握しておく必要があります。
中国の会計基準は国際財務報告基準( IFRS:InternationalFinancial Reporting Standards)を完全適用しておらず、また将来完全適用するかどうかの採択も不明です。しかし、2007年からIFRSを基礎とした新会計準則に基づく会計処理が行われているため、整備の基準は国際的な水準と変わらないといえます。実際の運用面では新興国特有の不正な処理が行われているケースもあるため、注意が必要です。

中国におけるM&Aトピック

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