労務・労働法
目次
1. カンボジアの労働法 | ■労働基準関係法令 ■雇用契約書と就業規則 ■就業規則の作成義務 |
1.カンボジアの労働法
■労働基準関係法令
■カンボジアの労働法体系の概要
カンボジアは、1992年3月に労働法が制定され、それが1997年3月に改定されました。1997年労働法では、社会主義的色彩の濃かった1992年労働法に大幅な修正を加えたもので、自由主義的で、労働者や組合の権利を尊重したものとなっています。
カンボジアの労働関連法令としては、労使関係、雇用、賃金、休暇などの労働労働基準を定める労働法(Labor Low 1997年)と、労働者の社会保険を規定する労働社会保障法(Law on Social Security Schems 2002年)の2つがあります。また、その他の細則として、行政規則、習慣法、ILOによって批准された国際法などがあげられます。
■労働基準比較
カンボジアの労働法は、個人、法人、民間企業、または国や地方公共団体が雇う雇用契約を締結し、雇用主の指揮命令下で働き、賃金を受け取る労働者の全てに適用されます(軍人、航空・海運、裁判官、公務員は対象外)。また、カンボジアの労働法では、原則として正社員と非正社員(臨時工等)が労働者として同等の義務、権利を持つと規定されています。
日本の労働基準法との主な比較は以下の通りになります。
日本 | カンボジア | |||||||||||||
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労働契約 | 口頭でも有効 | 口頭でも有効 | ||||||||||||
労働時間 | 1日8時間 1週間40時間 | 1日8時間 週48時間以内 | ||||||||||||
休憩時間 | 続して6時間を超えて労働する場合には45分以上、8時間を超える場合には60分以上の休憩 | 1日あたり1時間以内 | ||||||||||||
休日 | 週1日以上の休日 | 週1日の休日 原則日曜日 | ||||||||||||
割増賃金 | 時間外労働:1.25倍 ※月60時間を超える時間は1.5倍の例外あり 深夜労働:1.25倍 休日労働:1.35倍 | 深夜、休日労働以外の時間外労働150% 深夜、休日労働200% ※1日の労働時間は10時間を超えてはならない(緊急時を除く) | ||||||||||||
年次有給休暇 |
6カ月以上:10日以上 1年6カ月以上:11日以上 2年6カ月以上:12日以上 3年6カ月以上:14日以上 4年6カ月以上:16日以上 5年6カ月以上:18日以上 6年6カ月以上:20日以上 ※上記期間の出勤日数要件あり 通常有給の持ち越しは2年間 | すべての労働者には、最低でも連続する雇用の1カ月に1.5日の割合で雇用者により年次有給休暇(年間18日) 年次有給休暇日数は、勤務3年間に1日の割合で増加する。 労働者は1年間勤務した後に有給休暇を利用する権利が発生。 | ||||||||||||
解雇の事前通知 | 30日前の解雇 もしくは30日分の賃金の支払い | 以下の期間もしくは同期間に相当する賃金の支払い
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■雇用契約書と就業規則
■雇用契約の規定
- (1)口頭契約と書面契約
- 雇用契約は書面か口頭のいずれかで締結することができます。通常は書面で契約を行い、労働法や地域の習慣に従って作成します。口頭での契約は、明確に定義されていないとしても、就業規則で決められた条件での雇用者と労働者との暗黙の合意であると見なされます。
- (2)雇用契約の分類
- 労働法では、労働者の業務内容や勤務時間によって、雇用契約の形態や雇用契約終了に関して規定をしています。
雇用契約には主に以下の2種類があります。
a 有期雇用契約
b 無期雇用契約
■雇用契約の終了と解雇予告
- (1)有期雇用契約の終了
- 有期雇用契約は、契約に明記された終了日に終了します。(通知義務を怠った場合を除く)。しかし、以下の場合には、有期雇用契約終了日前に雇用契約の解除をすることができます。
①契約書の両者が雇用契約解除に合意した場合
②契約者のいずれかによる深刻な不正があった場合
③不可抗力による場 - (2)解雇手当
- 労働者の重大な過失や不可抗力がなく法的な正当性がないにも関わらず雇用者が雇用契約の解除をする場合には、労働者は契約不履行に関する以下の補償と損害賠償を求める権利を有します。
①解雇に関わる賠償
②損害賠償
③事前通知に代わる補償
雇用者が事前通知なしで、もしくは事前通知期間を遵守せずに契約解除を望む場合は、雇用者は、労働者が契約期間中に受け取ることができる賃金と手当を支払う義務があります。 - (3)有期雇用契約の退職金
- 契約が終了した場合、雇用者は、契約期間と賃金に比例した退職金を支払わなければなりません。退職金の正確な額は、労働協約により定められます。ただし、労働協約で定められていない場合は、退職金額は、少なくとも契約期間中に支払われた賃金の5%としなければなりません。
- (4)無期雇用契約の終了
- 雇用者が無期雇用契約の終了を望む場合、雇用者は正当な理由を明確にし、事前に通知をしなければなりません。
事前通知の必要最低期間は、それまでの雇用期間により7日間から3カ月となっています。雇用者が、事前通知期間を遵守できない場合、労働者に対し補償義務が生じます。しかし、労働者が試用期間中である場合や重大な不正を行った等の場合は、雇用者は事前通知なしに契約を解除することができます。
雇用契約が終了した場合、賃金とすべての種類の補償については、雇用終了後48時間以内に支払いを行わなければなりません。
■就業規則の作成義務
●就業規則の規定と義務
労働法では、就業規則の作成手順、内容、懲戒規則及び小企業の就業規則、就業規則の公布について規定しています。日本では10人以上の労働者を雇用する事業所では、就業規則を作成しなければなりません。一方、カンボジアでは、8人以下の労働者を雇用している小企業・組織は、就業規則を整備する必要はありませんが、9人以上であれば就業規則を作成する義務が生じます。
●就業規則採用の手順
カンボジアの就業規則の作成と労働監査官の承認の手順は以下のようになっています。
①企業は、労働者の代表との協議の上、企業の設立もしくは9人以上の労働者を雇用するに至った日から3カ月以内に就業規則を作成しなければなりません。
②就業規則は、労働監査官により承認を受けた後、有効となります。
③就業規則の提出を受けた労働監査官は、60日以内に就業規則を承認しなければなりません。
④就業規則は労働者に配布され、容易に目にすることができる場所に置くことが義務づけられています。
なお、就業規則の改訂の際も、同様の手順によって行われます。
●就業規則の内容と罰則
就業規則には、雇用条件、賃金・手当ての計算・支払い、労働時間、休日、通知期間、安全衛生措置、労働者の義務と罰則に関する規定を含まなければなりません。
就業規則で定められているにも関わらず、労働者が遅刻した場合や、健康・安全措置に従わない場合などには、雇用者は、労働者に何らかの罰則を課すことができます。
しかし、その場合でも、15日以内に免職を行うことはできません。また、労働者が不正を行った後もしくは雇用者がそれを知った後、7日以内に何らかの措置を取らなかった場合には、その労働者の免職権を放棄したものとみなされます。
また、雇用者が同じ不正に対して罰金と重複して制裁を課すことは禁じられています。